一般(賃貸借・管理)に関する相談

家賃滞納のある借主の死亡・連帯保証人に引き続き請求は可能か?
賃借人の家賃滞納額が50万円ほどありました。家主に滞納家賃を少しずつ返済していましたが、その間にこの貸家は売買され、新所有者には賃料を、前所有者には滞納分を返済していました。ところが、その途中で賃借人が亡くなってしまいました。
新所有者に対して滞納家賃はありません。
まだ滞納家賃額が20万円ほど残っています。敷金は契約当初15万円預託していましたが、滞納賃料とは相殺せずに新所有者に引き継いでいます。
そこで質問ですが、賃借人の相続人が不明の場合、連帯保証人に敷金を返すことは問題ないでしょうか?また、亡くなってしまった方の連帯保証人に、前所有者は滞納金残金を請求できるのでしょうか?
宜しくお願い致します。
先ず、状況を確認しますが、本件における連帯保証人が当該賃借人の法定相続人である場合と、そうでない全くの他人である場合、その法的処理が異なります。相続人が不明とありますが、賃借人は、賃料支払債務者である反面、賃貸人に対して目的物を使用収益させる権利や敷金返還請求権を有する債権者でもありますので、賃借人の死亡によっても賃貸借契約は消滅せず、賃借権は相続財産として相続人に当然に承継されることになります(民法・264条:使用貸借は借主の死亡により消滅する。民法・599条)。また、部屋に残された家財などの動産は相続財産であり、賃貸人や連帯保証人が勝手に処分することはできません。従って、賃貸人は、今後の交渉相手として新たに賃借人となる相続人を確定させることから始めなければならないのです。連帯保証人だからといって、安易に敷金を返還しては後にトラブルとなります。

次に、前所有者が求償中の滞納賃料を死亡した賃借人の連帯保証人に請求出来るか、ということについては、連帯保証人は、債権者と連帯保証人の間の「保証契約」により成立するもので、主債務者と債権者との間の金銭消費貸借契約や債務承認契約とは別の契約です。従って、債務者に生じた事情は保証契約に影響を与えず、たとい債務者が死亡したとしても債務の弁済義務は消滅することにはなりません。賃借権同様、債権の求償権も相続財産の内だからです。ですから、例えば連帯保証人が賃借人の法定相続人である場合(親族を保証人とする契約は多い)、当該保証人たる相続人が相続を放棄したとしても、保証人であることに変わりはありませんので、債務の支払いを免れることは出来ません。また、連帯保証人が他人であって、法定相続人が全て相続の放棄をした場合は、連帯保証人のみが滞納賃料債務の支払い義務を負うことになりますので、ご質問の回答としては、引き続き連帯保証人へ滞納賃料の残金を請求することが出来るということです。

最後に、調査の結果、戸籍上の相続人がいないことが判明した若しくは相続人がいたとしても、前述のように、その全員が相続放棄をする場合があります。このような場合、法律上は、「相続人のあることが明らかでないとき」に該当し、相続財産は法人となり(民法・951条)、賃貸借契約は相続財産法人との間で継続することになります。従って、賃貸人の交渉相手は相続財産管理人となりますので、賃貸人は自ら「利害関係人」として家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てを行い(民法・952条1項)、相続財産管理人との間で賃貸借契約を解除(合意解除)するなどの手続が必要となります。
しかし、この制度手続きには相続財産管理人の報酬や実費等に充当するための予納金(一般的に数十万円以上)が必要ですので、十分な相続財産が残されている場合なら、相続財産の清算手続終了後に返還されますが、相続財産が小額な場合は、申立人の自己負担となりますので、早急に相続人の確定とその後の対応を弁護士等専門家にご相談されることをお勧め致します。
2017.07.05
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「礼金」は天下無敵の一時金!?
最近の賃貸借契約実務では、敷金・敷引き特約を採用せず、敷金・礼金で契約することが一般的となってきました。というか、殆どです。
消費者の側からすれば、取られる(いや、支払う)お金は結局同じで、数年前に世間を賑わせた敷引き訴訟や更新料訴訟の話題も今は昔。不動産業者は網の目をするりと潜り抜け、礼金という取り切りの金銭を契約条件に加え、敷引きよりも更に返還不可能に近い名目を付けたこの一時金は、契約書を見ても「如何なる場合も返還しない金銭」と明記しています。消費者は用意された契約書に異議を唱えることなどあり得ませんから、結局不満を抱えたまま、必然的に諦めるのが今の契約社会の実態でしょう。
この礼金ですが、本当に必要なのでしょうか?また、如何なる場合も返還されることは法律的にも無理なのでしょうか?
不動産契約の先進国と言われる米国では、特殊な契約事情がある場合を除いて礼金制度は存在しないようです。従って、我が国の礼金なる一時金を正確に反映する英語は無く、通じる英語として Key Money(直訳すると権利金)とか、Gratuity Fee(チップ料)などが使われます。
日本でも礼金制度の歴史は浅く、日本人特有の社交風土から派生した「お礼の気持ち」を金銭で表す作法は、不動産契約においてのみ行われる独特のものではありません。冠婚葬祭などの形式に基づく儀式の度にやり取りされる金銭(祝儀や香典など)も、日本では常識ですが諸外国では全くやり取りされなかったり、在っても基準が大きく異なったりするなど、分類すれば日本の文化に根付くお金のやり取りは珍しいということが言えるでしょう。

そんな我が国での不動産契約における礼金の本質について、私的な見解ではありますが、考察を加えてみると以下の様なことが言えるのではないかと思います。
先ず、いつから礼金なる風習的制度が誕生したかについてだが、これは定かではないようで、地域的な差も大きく、戦後の動乱期に貸し手市場が生んだ悪しき慣習(悪しきというのは、結局金に物を言わせた方が住居を確保し易いという当然の結果だから)が発端とする記述が目につく。しかし、これとて根拠にはならない。何故なら、今でも礼金を定義する場合に「賃料の一部」とする表現が盛んに採用される理由として、賃貸仲介(周旋業)自体が大家の業務であった江戸時代中期以降。大家に対する店子が家賃の減額交渉に臨み、結果として交渉を勝ち得た際に、せめてものお礼として幾分かの金銭を店子側から提示していたようである。概ね当時の大家は家主ではなく管理会社のマネージャー。つまり、オーナーに内緒の賄賂である。中世の都市部における住居の殆どが借家であったから、これらは慣習化されるにそう時間はかからなかっただろうし、需要の高い地域では合理的な手段として条件化されていったとしても不思議は無い。京都や東京に古くから礼金の慣習があったのも頷けまいか?

さて、そのような慣習的金銭である礼金が肯定されて然りの時代背景ならともかく、現代に於いて礼金の意味を問われると、説得術を持たない不動産業者にとっては答えに窮するのも仕方ない。
しかし、あえて根拠を一つ示すなら、平成バブル期を過ぎたあたりから今日までの25年。その間、需要と供給の均衡は崩れ、買い手市場、借り手市場経済に突入し、それまで敷金は賃料の数ヶ月以上という相場も崩壊して、家主はとにかく入居者を確保するため、あらゆる条件の引き下げに応じた。結果、賃貸業の収支は悪化し、修繕費の拠出も難しくなる。そこで少しでも現金収入を確保すべく、敷引き金の割合を上げたり、取り切りの金銭=礼金制を多用したりして契約を進めることを対抗策としたのは当然である。預り金でも良いから敷金増額を、と考えても、借り手も不況にあっては手持ち現金に乏しいのであるから、質より量を選択するしか互いの利益の一致は見られなかったという経緯がある。従って、最初に用意する金銭総額が少ない方を借り手は望み、高額の預り金よりも純利益を確保した方が収支改善となる貸し手の利害合致から、礼金が重要視される契約形態が主流となってきたと分析できる。
必要か、必要ではないか、と問われても、明確な回答は出来ないのが今の状況であることをお察し願いたい。

最後に、礼金返還請求に絡む訴訟例を引けば、その多くが消費者契約法の趣旨に照らしての判断である。つまり、個々の事案によっては同法10条によって消費者の利益を一方的に害するとして無効の判決を下すもの、契約に至った経緯と明確な意識が存在するとして礼金特約が一方的に消費者利益を害するとまでは言えないとして有効の判決を下したものなど、ケースによっての取り扱いが裁判所の流れでもある。従って、契約期間の中途で不可抗力による契約解除を余儀なくされた賃借人などであれば、礼金の性質を考慮して返還請求も可能であろうし、反対に、明確な意思の下で契約したにも拘らず、一方的に特約を反故にしようと意図した訴えには、裁判所も耳を貸すまい。
※平成23年2月24日東京地裁判決、平成23年3月18日大阪簡裁判決、平成20年9月13日京都地裁判決など参照。

礼金制度自体、法律の定めによるものではないため、法律的に一刀両断には出来ず、契約自体の有効性を元にした検討下で判断されるべきものなのである。
2017.01.05
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熊本地震被災地での借地借家関係は?part供腸板妥について
熊本で不動産業と賃貸管理業を営む業者です。
今般の地震の被害を受け、管理物件の何棟かが被害を被っています。その中の学生マンションですが、半壊の認定を受けて現在は入居者が避難生活を余儀なくされています。住もうと思えば住めないことはないのですが、やはり親御さんから「安全が確認できるまでは戻らせない」と言われ、全室空室状態です。余震も随分収まって来たので、家主は「応急措置はした。一応、大丈夫なんだから家賃を払ってもらいたい」と板挟みです。このような状況で入居者に賃料を請求出来るのでしょうか。
また、中華料理店のテナントですが、ガスが4月30日まで止まっており、水道は5月15日まで使えませんでした。当然その間は営業が出来ず、片付けが終わって再開したのが5月26日でした。賃料が口座引き落としになっていたので、4月、5月分も入金されていますが、テナントさんから2ヶ月分の返金要望があります。返す必要がありますか?
ご事情、お察し致します。
早速ですが、最初のご質問の被災マンションの家賃の支払いについてお答えします。
賃貸借契約の賃料は賃貸物件の使用対価です。そのため賃料支払義務が継続するか否かは、賃貸物件を使用できる状況か否か、により異なります。仮に震災で賃貸物件が大きく損傷し、賃借人が居住できない状況となれば、賃貸借契約の継続は困難となるため、被災により賃貸借契約は終了し、その後の賃料支払義務は発生しません。震災による賃貸物件の損傷を確認する必要があります。家主が応急措置を施し、住める状態だと主張されている様ですが、ご子息を心配される親御さんの心情は当然ですので、家主側がこの建物は安全だという客観的証明でも示さない限り、戻っては来られないと推測します。家主さんも被災者であることは理解しますが、業として賃貸マンションの運営を行う以上、応急措置という観点ではなく、現段階での建物の安全性を調査し、確認されれば入居再開を促すという手順は必要でしょう。


なお、被災後の不動産については土地工作物責任の問題があり得ます。賃貸物件に倒壊等の危険があるにもかかわらず放置し、その結果、賃貸物件が倒壊するなどして他人に損害を与えた場合には、賃貸物件の所有者が被害者に対し損害賠償の責任を負う(民法717条1項)こともあり得るので注意が必要です。
また、安全性が確認されているのに入居者が戻らない場合、それまでの賃料は請求しないとした上で、通常の解約によって処理(心情的なものは別にして)することは可能と思料します。


次に、テナントの賃料返還請求に関しては、当事者双方に責任のない事由により賃貸物件を中華料理店として使用できなければ、使用できなかった期間の日割賃料を減額することが考えられます。民法では、天災等当事者双方に責任のない事由により賃貸物件を使用させる義務を履行できない賃貸人は、反対給付たる賃料の支払いを受ける権利を有さない、と定められているからです(民法536条1項)。
本件では、当該テナントが飲食店として営業が正常に行えない期間、つまり、地震発生時点(4月14日または4月16日なのか、詳細は不明ですが)からライフラインの開通(5月15日)までのほぼ1カ月の賃料については、家主側に受け取る権利がありませんので、受領した当月賃料は不当利得となりますが、水道が復旧した5月15日からテナント側が再開した26日までの間については、債務者(家主)に不履行は認められず、債権者(テナント)の責任で再開するまで時間を要したと見ることも出来ますので、家主が賃料の請求をすることも可能と思料します(この回答には、現実的な諸般の事情は考慮しておりません)。従って、当該賃貸借契約において、当事者間で別段の同意がなされている場合はこの限りではありません。
2016.07.05
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修繕工事拒否の入居者対策!…家主の権利と入居者の権利
管理物件マンションの1階入居者Aさんから、ベランダ天井部避難ハシゴ部より水が落ちてきて洗濯物が干せないとの苦情が寄せられ、2階入居者Bさんへ現状確認のため連絡を入れましたが連絡が取れず、手紙をドアポストに投函しても一向に連絡がない状況が続き、再度Aさんより、「なんとかしてほしい」と苦情がはいっております。
2階ベランダの避難ハシゴの劣化により、雨水や排水がその部分を伝い、1階ベランダへ落ちてきていると推測致します。通常はBさんの室内からベランダへ入り、避難ハシゴの取り換え工事や防水工事等行うのですが、2階ですので室内を経由せず、外部より大型ハシゴによりベランダに入り工事が可能です。
このような連絡が全く取れない(無視される)入居者に対し、法的に問題のないようベランダに入らせていただき、修繕が行えるようするにはどうすればよいか、ご指導お願い致します。
なお、賃貸借契約の約款には、以下の特約が在ります。
第13条(空室に関する事項)
乙は、1ヶ月以上継続して本物件を空室にする場合は、あらかじめ甲又は甲の指定する者に対し、その旨を通知しなければなりません。
第14条(立入点検)
甲又は甲の指定した管理者は、本物件の修理その他、建物管理上必要のあるときは、あらかじめ乙に連絡のうえ、又防火・防犯・救護等緊急の必要のあるときは、乙の承諾なしで本物件に立入り、必要な措置をとることができます。なお、乙が前条の通知を怠った場合も同様とします。
本件について、先ず弁護士の見解を紹介します。
「賃貸借契約上、ベランダ部分は共用部分とされ、賃借人には専用使用が認められるのみであるのが一般的であろうと思われます。とすると、ベランダ部分は、所有者である賃貸人に管理権限がありますので、賃貸人は自由に立ち入ることができるのではないかとも考えることができます(本件で、契約書上、ベランダが賃貸借の対象外となっているかが当職にはわかりませんので、本件についてどうかの回答は留保させて頂きます)。
しかし、ベランダに、賃貸人が入居者に無断で立ち入ったことに関する裁判例は、私の調査の限りでは見当たりませんでした。
個人的な意見ですが、ベランダは、共用部分ではありますが、廊下等と異なって専用使用が認められていることから、私的空間である要素が強いです。そのため、最高裁の判例注1に照らして、入居者の明示の承諾が無い場合、「緊急やむを得ない特別の事情」がなければ立入りできないと考えておく方が無難であると思われます。」
注1
賃料未払による立入りについては最高裁の判例があり、「私力の行使は原則として法の禁止するところである」ことが原則であり、例外として「法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合において」は、「必要の限度を超えない範囲内で」許されるとしています(最判昭和40年12月7日民集19巻9号2101頁)。
さて、民法606条2項では、賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができないと規定されており、借主は賃貸人の保存行為への協力義務を負っていますので、この借主の義務に違反しているとして、契約解除を求めることが考えられます。これについては、借主による長期間の不在が続いていたこと等の事情から契約の解除が認められた事案があります(東京地判平成6年3月16日判時1515号95頁)。一般論としては、賃借人には必要な保存行為に対する受忍義務がありますから、これに従わなければならず、受忍義務に違反したときは契約の解除はあり得ることです。ただし、賃貸借契約のような継続的な契約関係を解除する場合には、当事者間の信頼関係が破壊されるような義務違反の場合に限られるとする、いわゆる信頼関係破壊理論が判例上も確立しています。また、ここで注意しなければならないことは、同条に基づき、賃借人は当該工事(保存に必要な行為だ!)を拒めないのであるから、賃貸人は強引に工事を行うことが許される、ということではないことです。つまり、法理としては、保存行為の必要性有→賃借人の受忍義務(民法606条2項)違反→賃貸借契約の解除であって、法が原則禁止している「自力救済」を認められるということではありません。 とはいえ、裁判所に訴訟を提起する等をすると、多くの時間と多額の費用がかかってしまいます。従って、借主に文書(内容証明含む)で圧力を加えることが現実的な対応だろうと思われます。以下にその文書の記載内容例を記しますのでご参考下さい。
  • 1.前述の民法606条2項により、賃借人は必要な保存行為に協力する義務を負っているにも係わらず、斯様な現状が続くと、借主の債務不履行により契約を解除させて頂くことになるので、早急にベランダへの立入りと貸主による修繕を受け入れるよう要求する。
  • 2.借主は、バルコニーを含む賃貸部分の引渡しを受けていることから、民法717条1項により占有者として土地工作物責任を負う場合がある。ついては、2階ベランダの避難ハシゴの劣化により、雨水や排水がその部分を伝い、1階ベランダへ落ちてきている可能性があり、貸主による修繕工事に協力しなければ、階下の住人に対して損害賠償責任を負う場合があるので、早急に協力するよう要求する。
などです。
なお、このような文書にも返答がない場合を想定し、更に「いついつまでに承諾の意思表示をお願いする。期日までに返答なき場合は、黙示の承諾があったものして指定工事日に貸主立会の下で工事を行う。」として工事を実行することも考えられますが、これについては意見の分かれるところであり、グレーゾーン(相手方から権利侵害で訴えられる可能性がある)と言わざるを得ませんので、自己責任を以てご対応願います。
2016.05.06
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保証人欄への代筆署名…無権代理人の責任は重い!
賃貸借契約の連帯保証人を義兄にお願いするつもりでおりました。不動産会社に書類を貰いに伺ったときに、重要事項説明を受け、保証会社の契約書に連帯保証人の署名捺印を貰ってくるよう言われたので姉に電話をしたところ、義兄は出張中で姉が代わって署名と義兄の実印を押してくれ、印鑑証明書を預りました。
その後、私が仕事を変わりました関係で2ヶ月ほど家賃を滞納し、保証会社から義兄のところへ支払い通知が行ったことから騒動となり、義兄は保証人になった覚えも、なるつもりもない!と怒っています。保証会社は、「義兄様が保証人を拒否するなら、サインをしたお姉様に払ってもらいます」と言っているそうですが、姉に責任があるのでしょうか?
貴殿の連帯保証について、義兄様ご本人の意思とは異なる行為(署名捺印と印鑑証明交付)をお姉様がなさったということは、無権代理行為となります(民法117条)。その代理行為は、ご本人(義兄様)が追認すれば有効となりますが、お姉様が義兄様の代理人であることを証明出来ず、且つ義兄様の追認も得られないということであれば、当該連帯保証契約の相手方(保証会社)が無権代理人(お姉様)に対して契約の本旨に従った履行または損害賠償の請求のいずれかを選択出来ることになり、上記のような請求も可能ということになります。

代理の場合、本来は署名欄に「連帯保証人〇〇 代理人△△ 印」とするのが正式(民法99条1項)です。しかしながら、代筆という行為もまた商習慣的に一般的であり、所謂「署名代理」として判例もこれを認めています。この場合、代筆者が代理権を証明できず(そもそも代理人でない場合も含む)、且つ本人の追認も得られないときは、無権代理人自身が責任を負うことになってしまいます。

ここで一つ問題として検討しておかなければならないことは、当該保証会社は、連帯保証人である義兄様の保証意思の確認を行ったか否かです。
銀行や保証会社などの金融機関は、保証契約の相手方の意思確認については厳格に処理する責任を負っており、保証意思の確認の際(電話確認を含む)には、保証人欄への記載についても、同人の自筆なのか、(契約書作成時にはその場にいなかったかどうかの確認、いなかった場合はどこで署名・押印を行ったのか、さらに、同人の筆跡でなければ、その理由の確認、さらに保証意思の具体的な確認などが必要とする実務を行っているはずです。
本件では、その辺りが不明であるので、結論が正反対になる可能性もあります。
民法117条2項では、無権代理人の責任を追及出来ない場合として、「前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。」としていることから、本件では保証会社の意思確認の如何によっては、業務上の過失が問われるかもしれません。つまり、保証会社が当該連帯保証人の意思確認やその他の重要な事項を確認していなかったことに重大な過失があるとされた場合、民法117条2項の規定により無権代理人の責任は追及出来ない、ということです。その辺りを確認し、弁護士等の専門家にご相談されるのが良いでしょう。
ただし、上記に類似の事案に対する異なった判例もありますので注意が必要です。

東京高裁判決(平成12年12月7日・判事1741号)
事業資金の融資を巡り、債務者の妻の夫に債務の連帯保証を依頼したところ、夫が初老期痴呆症であったため、妻が夫に代わり無断で署名代理をなし、連帯保証契約を締結した事案で、この妻を被告として金融機関が保証債務の履行を求めて提訴した事例で、当該金融機関が債務者の義兄に対し直接保証意思の確認を怠ったことが、即、金融機関の過失であるとは言えず、被告には無権代理の責任は免れないとし、債務の弁済を命じた(一審、ニ審共通)。

本件でも、保証会社の意思確認の方法や諸般の事情によって、保証会社の過失が認められるかどうかはケースバイケースですので、早期に滞納賃料を弁済し、新たな保証人を立てるなど、誠意をもって相手方と話し合うことが肝要と思料します。
2016.04.05
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続・賃貸物の使用収益に必要な維持修繕義務とは?…意外と迷う、こんな時はどうする!?
先月号に引き続き、相変わらずご相談の多いこの問題に関し、ちょっと珍しい事例や、えっ??と驚くような本当にあった事例をオムニバスで纏めてみました。
こんな場合、原因調査や補修は、賃貸人か賃借人、どちらの負担でなされるべきか?また、仲介した宅建業者にはどのような責任があるのでしょうか?最近流行りの賃貸管理会社としては?など、一般消費者が予想する結論とは正反対の判断が下るケースがあるかもです。どうぞ予想しながら読み進めてみて下さい。
Q1.
賃貸マンション(鉄筋5階建て)の一室を賃借している住人から、「自分の部屋のベランダに蜂の巣が出来ている。危ないので直ぐに撤去して欲しい」との連絡が当該マンションの賃貸管理会社に入った。
管理会社担当は、直ぐにマンションオーナーに連絡し、指示を仰いだが、オーナーは、「蜂の巣が出来るのはマンションのせいではない。自然の営みなんだから家主に責任は無い!賃借人でどうにかすればいい!」との応対。当然、賃借人は正反対の主張。あげくに、「管理会社なんだからそっちが何とかしろ!」と板挟みに。
A1.
賃貸物件の修繕については、民法第606条1項において、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と規定されており、それらに該当する(使用収益に必要であるとされる)修繕費は賃貸人(家主)の負担が原則です。また、家主と管理会社の管理契約で、管理会社は管理物件の修繕費を支払う旨の条項があれば、家主は管理会社に同費用を請求できます。
また、同条2項では、「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない」と規定されていますので、賃貸人としては、今後、蜂の巣ができにくいよう当該場所の清掃や予防措置をするなどの方法をとることができます(賃借人はこれを拒めません)。
本件の場合、賃貸借契約の特約で、「ベランダ等共用部分に蜂の巣等が出来た場合、その除去は借主の負担とする」などの約定がされることは稀ですから、特段の事情が無い限り、不可抗力であっても賃借人に危険が及ぶことが予測できるような場合、賃貸人が蜂の巣を除去しなければなりません。

Q2.
すでに入居して8年になる賃貸マンションの住人からのご相談。
最近水道料金がやたら高いと思っていたら、先日、水道局から、「どこか漏れていませんか?」という確認の電話。もしかすると、と思い、トイレを確認したところ、ずっとチョロチョロと水が流れている。タンクを開けても溢れるぐらいは溜まっていないので、便器の方へ流れている。「これだわ!」と思い、早速仲介してくれた不動産業者へ電話すると、「長年お住まいで、通常使用による設備の修理などが出た場合は、賃借人負担ですよ。何でもかんでもオーナーに負担させることは出来ませんよ!」という返事。前に住んでいたワンルームの時は、水道パッキンやエアコンのリモコン故障も全部オーナーが直してくれたのに。今の家主はドケチなのでしょうか?
A2.
この場合も、特段具体的な箇所の修繕についての特約がされていないという前提で回答します。
上記の場合でも、賃貸借契約の標準的な内容においては、「入居中の小修繕については賃借人の負担とする」などの約定があるでしょう。法律上の賃貸人の修繕義務(民法606条)と照らしても、生活しているうえで生じる様々な事象に修理修繕の必要が出た場合、原則的には賃借人が自らの負担で修理することになるでしょう。しかし、その原因が消耗部位以外にあり、修理しなければ当該入居者が延々と高額な水道料金を負担させられるなど、生活に支障を来す場合、話は別です。このときに係る調査費用を含めて、賃貸人に請求(必要費)することが出来ます。

Q3.
・畳の交換は賃借人の負担とする。
・大規模な修繕の義務を賃貸人は負わないものとする。
・通常損耗に係る原状回復も賃借人の負担とする。
これらの特約をどう解釈するか。賃借人はどこまでしなければならないのか。
A3.
賃貸人の修繕義務(民法606条1項)について、特約で賃貸人の修繕義務を免除したり、或いは賃借人にそれらを負担させたりすることは可能なのか、という問題です。前述のQ1.Q2.にも関連しますが、裁判所は、契約により、入居者が賃貸の目的(営業目的や居住目的)を達成するのに必要な修繕義務を、一定の範囲で賃借人に負わせる特約を有効と解しています(最高裁判決・昭和29年6月25日)。
また、賃借人が修繕費(必要費)を負担すること及び、賃借人の必要費及び有益費の償還請求権(民法608条)を予め放棄させる旨の特約も、有効と解されています(最高裁判決・昭和49年3月14日)。
更に、最高裁判決(昭和39年6月26日)では、「(賃貸借の目的物の大修繕に関し)仮に賃借人が修繕する旨の特約がある場合でも、本件の如き大修繕は特別の事情がない限り賃借人が負担する義務がない」という家屋賃借人の主張を退けて、大修繕を賃借人に負担させる特約も原則として有効と判断しています。
つまり、特約に定めた義務の範囲と有効性に関する判断基準は、特約が、単に賃貸人の修繕義務の範囲(限界)を定めたに過ぎないのか、それとも積極的に賃借人に修繕義務を負わせる趣旨なのかどうかです。従って、Q3の各特約において、賃借人が畳の交換をしなければならない、大規模修繕は賃借人がしなければならない、という趣旨には無く、交換するなら、修繕するなら賃借人でして下さい、という解釈となり、一方で、通常損耗の原状回復も賃借人の負担とする(消費者契約法に抵触する契約の場合、無効とされることがあることに注意)場合は、原状回復は義務であり、賃借人にその負担を強いるという積極的な趣旨ですから、退去後の通常損耗も含めた原状回復に係る負担は、賃借人が負うものと解釈されます。
2015.10.05
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賃貸物の使用収益に必要な維持修繕義務とは?…建築知識も要求される賃貸仲介の現場
先月に賃貸借契約を締結した昭和50年代建築の鉄骨造2階建て貸倉庫について、現在借主の自己負担で1階部分をリフォーム中です。
今回、倉庫兼作業所兼事務所としての使用するため、給湯室とトイレをのぞいてほぼワンフロアだったところを、4部屋ほどに間仕切りしています。
ところが、借主より、床に水たまりができるほど湿気がひどい!という苦情がありました。貸主によると、前入居者からは一度もそのような苦情を受けたことがないので、原因がわからないとのことです。貸主は、リフォーム工事のせいではないかと考えておられるようですが、今のところそう断言できる根拠もありません。契約締結まで雨の多かった時期も含めて、何度か内覧していますが、その時には全く湿気などは感じませんでしたし、借主にもこの点は確認しています。梅雨の時期特有のことなのかもしれませんが、借主としては商品の保管もするため、なんとか対応してほしいとのことです。
今のところ、工事は半分程度進んでおり、水道管等の破損等はありません。床はコンクリートにクッションフロアの直貼りです。建物の登記種目は倉庫ですが、事務所としての使用や内装工事について貸主は承諾しています。

この場合、湿気の原因調査や床の補修は、全額貸主の負担でなされるべきでしょうか?また、仲介した宅建業者にはどのような責任があるでしょうか?弊社としては、管理は請け負っておりません。
民法606条は、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。」と規定しており、経済的対価(賃料)を得る為には、賃貸人として、賃借人が契約の目的に従い、通常の使用に耐える程度に必要な目的物の維持修繕の義務を課しています。本件では、本来倉庫であった物件を、賃借人の希望により、改装して事務所等に併用することは賃貸人も承諾の上で賃貸借契約が締結された経緯が伺われます。賃借人の側からすれば、用法の変更については貸主の了解を得ているのであるから、通常の使用に耐える程度の修繕義務は貸主にある、と言いたいところでしょう。

ご質問からは、契約の内容について不明(例えば賃貸人の修繕義務一部免除特約など)ですから、個別の要因は考慮せず、先ずは法の解釈と判例等に基づいて解決を試みることとします。
所謂「民法606条1項にいう『必要な修繕をする義務を負う』場合とは、修繕しなければ賃借人が契約によって定まった目的に従って使用収益することができない状態になったことをいい、賃貸人の目的物修繕義務は、単に賃借人をして目的物をその用法に従って使用収益させるのに必要な限度にとどまると解するのが相当であり、たとえ目的物に破損や障害が生じたとしても、その程度が賃借人の使用収益を妨げるものでない限り、賃貸人は修繕義務を負わない」(東京地裁平成25年1月29日)とされています。又一方では、「建物の毀損が天災等の不可抗力によるものであっても賃貸人は修繕義務を免れない」とされています(大審院大正10年9月26日判決)。これらは通説であり、本件の場合の判断にも適用されますが、賃貸人が修繕義務を負うと同様、テナント(賃借人)側にも一定の「損害拡大防止義務」が課されます(民法594条1項・借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない)ので、自らの用法に必要な改装工事については、自己の責任と負担に於いて行うことは当然です。

そこで、本件について検討すると、貸主がこのまま対処せずに放置した場合、湿気の程度が通常の予測の範囲を超え、例えば借主の保管商品や機械機器等に損害を生じさせる事態を想定したとき、借主は契約の目的を達せられないとして、被った損害の賠償を求めてくること(民法415条・債務不履行による損害賠償)も考えられます。

しかし、そもそも本件改装工事に関し、借主が行った床の仕上げに問題は無かったのでしょうか。

法的な判断はさておき、当該建物の床に何らかの問題があったとしたら、建築の技術的な問題として、事務所等として利用に本件床の仕上げは適当でしょうか。つまり、床コンクリート上に直接CFシート(塩化ビニール材が主)を施工すれば、床からの湿気が逃げ場を失い、結露することは十分に考えられるからです。このような場合、技術的には一旦木材で床を組み(根太組)、合板で捨て貼り(床下地板)をした上にCFシートを施工すれば、コンクリートと床下地板の間の空気層と合板等木材が水分を一定吸収してくれますので、結露は格段に改善されます。

以上、本件の解決策としては、先ず賃貸人の修繕義務を主張する前に、賃借人がその用法に従い適正な工事を為すことが求められますので、施工内容を見直すなどする必要があると思われます。そのうえで使用を開始してもなお、問題が解決されないときは、建物の構造等にも原因が考えられますので、賃貸人は賃借人の使用収益を妨げない程度の修繕を行う必要が生じ、原因調査と改修工事の負担をすべきと考えます。
最後に、仲介業者について責任は問われるかということですが、本件について言えば責任を問われることは無いと考えられます。なぜなら、一般的な賃貸借物件の斡旋業務においては、建物の構造や改装工事における問題を予見しなければならない程の建築知識を宅建業者に求めるのは酷であり、且つ物件引渡し後に発生する工事や建物構造に起因する問題まで責任を負う業務ではないからです。

ただし、本件のような事例も、宅建業者に相当の建築工事に関する知識があれば、賃借人に対する適切なアドバイスは勿論、賃貸人に対しても本来の用途以外に建物を使用させる場合の注意など、トラブル未然防止に繋がることは非常に有益と思料しますので、宅建業者の皆様には是非とも研鑚されることを期待致します。
2015.09.05
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賃借人の原状回復義務とは?…法の趣旨と特約の有効性
借りていた部屋の退去後、契約書記載の日数を過ぎても敷金が返ってきません。大家に問い合わせすると、「原状回復の必要があるので契約書通りの差額だけでは足りない」といわれました。管理賃貸業者に相談しても、こちらは仲介したわけではないのでと、取り合ってもらえず、直接当人同士で話あって下さいといわれました。
契約書には敷金40万、解約時25万敷引き、残りを返すという契約です。家賃5万円のワンルームマンションで、ユニットバス、居住年数は10年近くになります。特に設備が使えなくなっているわけではなく、大きく目立つ破損はありません。入居前、何箇所かキズや設備の傷みがありましたが、支障がないので了承の上入居。その後、大家が何度か変わり、その損傷箇所が入居前のものかは自分では証明できません。
証拠がないと、現在の住人の責任で原状回復請求されるのでしょうか?
又、契約書の特記事項欄に「出るときには部屋のクリーニング代を払う」という文章があるのですが、自分では最後に掃除もして一応綺麗にして出たにも係わらず、本当に支払う必要があるんでしょうか?
国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下「ガイドライン」)では、居住用建物の原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗、毀損(以下「損耗等」といいます)を復旧すること。」と定義付け、建物の損耗等の復旧にかかる負担を分かりやすくするために、損耗等を3種類(経年変化、通常損耗、その他の損耗)に区分しています。それらのうち、賃借人が負担すべきはその他の損耗(故意・過失、善管注意義務違反によるもの又は、通常の使用とは認められない使用による損耗)のみを原則としています。

上記ガイドラインに照らせば、ご相談者の場合も経年変化や10年という長期間に及ぶ生活の中で当然に起こり得る損耗等については、賃借人の負担とはならず、家主の「原状回復の求め」に応じる必要はない、と言いたいところです。
しかし、契約事というものは、そもそも当事者同士の取り決めを優先し、互いに異議が無ければ当然に有効なものとして成立します。従って、ご相談者のご質問中に在る「契約書」に記載されている内容がとても重要になります。
そこで、非常にご相談の多い原状回復に関する問題を明確に理解するため、論理的な分析を行い、そこからご相談の回答を導き出してみましょう。
  1. 「原状回復」の法的根拠は?
    原状回復を規定する法律として、先ず民法が挙げられます。
    民法:598条(借主による収去)
    借主は借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。

    この規定は任意規定とされ、民法の使用貸借に関する節に置かれて賃貸借に関する616条で準用されています。つまり、賃貸借においても598条が適用されますので、賃借人の原状回復も任意に当事者同士で取り決めることが出来るとされます。
  2. 「原状回復」とはどういう意味か?
    日本語の語意として、借用前の状態(原状)に復する(回復)という意味で解釈することは勿論ですが、物理的な問題があるように、時間を戻すような理論を当てはめることは出来ません。従って、法的に有効な原状回復とは、借りている間の自然発生的な損耗等や、時間経過と共に進む劣化及び不可抗力による損耗等についてまで義務者に負担を強いることは現実的ではありませんので、一定の免責を認めて原状回復を有効と説いています。
  3. 「原状回復」は賃借人が負う義務か?
    上記の結果から導く原状回復の論理は、法律上の強行規定として賃借人が負うべきとされる義務ではなく、法は単に賃借物に賃借人自らが施した附属の施設設備や造作物等の収去を認める(所有権の帰属関係)と共に、能動的な賃借人の行為を肯定しているに過ぎません。つまり、「…することができる」と規定した以上、当然「…しないこととする」運用も適法であり、当事者間の自由意思に委ねられた原状回復は、「特段の定め(特約)」によって「…しなければならない」とした場合にのみ、個々の契約の条件として有効に義務化されるということになります。
  4. 「ガイドライン」は拘束力を持つのか?
    次に、実務的な視点で検討を加えると、法理論上の解釈とは異なって一定の制限を課す運用が求められる実務では、運用上の指針が有益であることから、国土交通省住宅局は所謂ガイドラインの公表に踏み切り、広く不動産業界への告知を行うと共に、トラブル防止と紛争解決の基準として示しました。又、当該ガイドラインは法律ではありませんので、当然に拘束力を具備するということはありません。
    しかし、近時の裁判所による同種の事件を処理した判例によれば、このガイドラインの指針に沿った判断が多く見られることや、消費者契約法(平成12年5月12日法律第61号)の適用事案も含め、前述した原状回復の賃借人負担に対する一定の基準(通常損耗、経年変化は原状回復の対象とならないという原則)を採用するに至っています。

以上の論理を理解したうえで、ご相談者の故意過失、善管注意義務違反に該当する損耗等が無いという前提で本件を判断するなら、

『本件貸室の契約終了に伴う原状回復は、当該賃貸借契約に定めた用法に基づき賃借人が10年間使用し、通常使用とは認められない使用の結果貸室に与えた損耗等も無く、又退去時において一般人が相当と考える程度の清掃も行っていること及び、10年と言う期間に亘る賃料を受領した賃貸人においては、居住年数相応の損耗等に対する原状回復に要する費用をも補填されたと見るべきであって、且つ敷引き金特約による賃貸人の利益等、当事者の経済的均衡も勘案したとき、本件契約の原状回復における特約は、貸室を退去時の状態で明渡せばその目的を達すると解釈して賃貸人に不利益は生じず、又、室内クリーニング費用負担特約において賃借人に義務を加重することは、消費者契約法に照らし許されないと解すべきであり、本件に関する限り賃貸人は敷金から敷引き金を控除した残額、金15万円を賃借人に直ちに返還すべきが相当』

という結論になると思料します。ご参考下さい。
2015.04.06
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障害者用設備の不備は家主の責任!?…自己責任と免責特約の有効性
最近の世の中は、障害をお持ちの方々や高齢の方々に対する様々な配慮が必要な状況になっています。県や不動産業団体からも、要支援者、住宅確保困難者には賃貸住宅の斡旋提供を拒んではならないとの御触れも廻ってきます。しかし、社会の現状はその実態に追い付いておらず、予め障害者の居住を前提とした設備等を備えた住居は特殊であり、殆どが健常者を前提とした建築、内装、設備によって市場が形成されています。そこで質問ですが、一般的な住宅に障害をお持ちの入居者と契約する場合、家主としては必要な設備を設置しなければ万が一の事故のときに責任を問われるのでしょうか?又、それらを入居者の自己負担として家主の責任を免除する特約は有効でしょうか?
民法606条1項(賃貸物の修繕等) は、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。」と規定し、賃貸人の責任範囲を、賃借人の利用に関し必要な修繕をすることとしています。 しかし、民法606条の修繕とは、故障や損傷部分の修補を言い、賃借人の属性や一身専属的な条件によって建物や設備仕様の変更もしくは付加改修に対して適用されるとまで解釈を拡げることは出来ないと考えます。従って、ご質問の懸念は特段の事情が存在する場合を除き、契約によって拘束されるべき内容であると言えます。

そこで、実務的に一般住宅としての設備、機能しか備えていない住宅において、障害をお持ちの方が入居を希望された場合の特約対応を検討します。

ケース1.
【入居者の要望に応じた改修工事を賃貸人が施工する場合】
第○条 本物件に、賃借人の身体機能に応じ必要な施設を設置するため、賃貸人は廊下、階段、風呂、洗面室、トイレに関し、賃借人の指定に従い手摺、握り棒(以下施設等という)を設置するものとする。但し、当該施設等設置に係る工事費用は賃借人の負担とし、行政庁に対する当該工事の補助申請等に関する手続は賃借人がこれを行い、賃貸人はそれに協力するものとする。
2.前項但し書きの補助申請が認められないときは、賃借人が当該工事の費用を負担するものとし、賃貸人に対し賃料、敷金礼金等の減額を求めることは出来ないものとする。
第○条 本契約が終了し本物件の明渡しに関し、賃借人は、当該工事において(契約期間中に変更等をなした施設等を含む)設置した施設等を原状に復する義務を負うものとする。

ケース2.
【入居者の要望には応じないとし、原状での契約を原則とする場合】
第○条 本物件は、身体機能に障害を有する入居者の利便に対応する施設設備が備わっていない住宅であることを賃借人は了承のうえ、本契約を締結するものとする。但し、本契約期間中に賃借人が生活に必要な施設設備を設置しようとするときは、賃貸人の承諾を得て当該施設設備を設置することが出来る。なお、設置に要する費用は賃借人が負担するものとし、賃貸人に対し賃料、敷金礼金の減額もしくは掛る費用の負担を求めることは出来ないものとする。
第○条 本契約が終了し本物件の明渡しに関し、賃借人は、当該工事において(契約期間中に変更等をなした施設等を含む)設置した施設等を原状に復する義務を負うものとする。

ケース3.
【入居者募集段階で障害者用施設等の敷設が無いことを明示しておく場合】
・物件広告等資料の備考
本物件は、身体的機能障害等を有する入居者を対象とした施設設備は有りません。障害をお持ちの方のご入居を拒むものではありませんが、本物件に入居をご希望の際は、本物件の仕様を十分にご確認頂き、ご自身及び介護者等関係者のご判断によってお申し込みをお願い致します。なお、契約時、契約期間中を問わず本物件に必要な施設設備の設置を求められる場合、賃貸人の承諾及び掛る費用の負担が必要となります。
・重要事項説明や契約内容に盛り込んでおく容認事項
本物件は、身体的機能障害等を有する入居者を対象とした施設設備は有りません。障害をお持ちの方のご入居を拒むものではありませんが、本契約締結にあたり、本物件の仕様を十分にご確認頂いたうえで、ご契約者ご自身及び介護者等関係者のご判断によって契約を行ったものです。従って、本物件の原状に対する不備等、一切の苦情等を申し述べることは出来ません。又、本契約期間中に賃借人が必要な施設設備の設置を求められる場合、賃貸人の承諾及び掛る費用が必要となりますことをご了承ください。

次に当該賃貸物件に対する免責条項ですが、いずれの場合も次の通り約定しておくことが肝要です。
免責条項
第○条 本契約期間中、賃貸人の責めに帰す事由を除き、天災地変、火災等、事件事故により、賃借人及びその関係者が死傷した場合で、本物件に対する障害者用施設等の不備が指摘されたとしても、賃貸人は一切の責任を負わないものとする。

以上のような対応が望ましいと考えますが、賃借人の募集に際し、明らかに障害者等の入居を促進、優遇する場合や、介護施設やグループホーム等、法令によって一定の基準に適合させなければならない施設などの賃貸借では、賃貸人の責任を免除もしくは軽減するなどの特約は無効とされることがありますので注意が必要です。

なお、障害者等の円滑な日常生活や社会生活を確保し、自立を支援するため、平成18年12月20日、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー新法)」が施行され、高齢者、障害者等の移動上及び施設の利用上の利便性及び安全性の向上の促進を図るため、公共施設のみならず、多数の者が利用する建築物(特定建築物)及び不特定多数の者又は主として高齢者や障害者が利用する建築物等(特別特定建築物)に対する同法の基準に適合させる建築、用途変更、修繕又は模様替について努力義務を課しています。その中において、一般住宅の用に供される「共同住宅(述べ床面積2000m 2を超えるもの)」も含まれる(法2条1項16号)ことから、該当する賃貸用マンションなども同法の適用を受けることになりますので留意すべきです(条例等によって、規制を強化している地方自治体もあるので、2000m2未満の建築物であっても管轄する行政庁への確認は必須です)。
2015.02.05
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危険ドラッグを対象とした賃貸契約の特約は?
賃貸業を営む家主です。今年はことのほか薬物による事件、事故が多発し、罪の無い一般人が巻き添えになる痛ましい惨状がテレビでも何度となく放映され、自分もいつ巻き添えになるのかと安心して道を歩くことも出来ない毎日です。
覚せい剤や、麻薬、シンナー中毒者においては、これまでにも法律で厳しく規制されていると聞いていますが、厄介なのは脱法ハーブという中途半端な分類によって堂々と売られている「危険ドラッグ類」です。当方も自らの貸家店舗について、そのような物を販売されたり、使用されたりすることは断じて許し難く、賃貸契約の中に「禁止条文」を盛り込みたいと思っていますので、是非ともご指南お願い致します。
最近、新聞などを賑わしている「危険ドラッグ」(違法ドラッグ・脱法ドラッグ・脱法、合法ハーブなど)の使用や製造、販売に関して、家主さんにとっても賃貸物件を利用して「危険ドラッグ」の販売等をされたり、住居内で「危険ドラッグ」の製造をされたりした場合、現行の「賃貸契約書」でどこまで対応する事が出来るのか?非常に懸念されるところです。
不動産業界や行政の対応は、どこまで行っているのかは、家主さんのみならずとも気になるところでしょう。しかし、覚せい剤や麻薬など、法律できっちりと規制されている薬物とは一線を画す危険ドラッグ類は、取り締まりにおいてもイタチゴッコが繰り返され、厄介な代物として未だ大手を振って街中に出回っているモノも多数あります。それらの危険ドラッグ類を賃貸借契約の中でどう規制することができるのかは、今業界内でも検討されているところです。

1.事業用の賃貸借契約の場合(店舗・事務所など)

事業用の賃貸借契約の場合には、最初に規定した営業目的以外に利用した場合、目的外使用として契約解除事由に該当するとしている契約がほとんどの様です。ましてや「危険ドラッグ」の販売などを目的として使用すれば尚更ですので、現行の賃貸借契約でも、十分に解除事由に該当しますので、契約解除が出来ると思います。
ただし、「無催告解除」とするには、特約などで契約当初から書面に記載しておく事が肝要でしょう。又、所謂「危険ドラッグ」は通称です。従って、契約書などに記載する際には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(旧薬事法)」などを引用して、表記する必要があるでしょう。

2.居住用の賃貸借契約書の場合

居住用の賃貸借で、危険ドラッグ類の販売等を行っている様な場合は、法律に抵触するような「品物」を取り扱っている事と、賃貸借契約上の用途違反(居住用の建物内で販売を目的とした事業用物件のような利用をしている事)がそもそも契約違反になります。その為、危険ドラッグ類の販売等を行う事は、一般的な賃貸居住用契約書式でも契約解除事由に該当し、解除が出来ると思います。
ただし、あくまでも解釈で行うものですから、事業用と同様に契約解除を催告手続き無し(無催告解除)で行う為には「危険ドラッグ」を想定した特約条文を契約当初から賃貸借契約書に記載し、入居者に十分説明しておく必要があるでしょう。
そこで、公益社団法人全日本不動産協会近畿流通センターの賃貸借契約標準書式では以下の特約を装備し、併せて入居者や借主に誓約書を提出させることも出来るよう、この度書式の改訂を行いましたので、ご参考にして下さい。

※各種賃貸借契約書条文の「禁止事項」に以下の条文を追加

1.大麻取締法(昭和23 年法律第124号)、覚せい剤取締法(昭和26 年法律第252 号)、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28 年法律第14号)、あへん法(昭和29 年法律第71号)、毒物及び劇物取締法施行令(昭和30 年政令第261号)、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(旧薬事法、昭和35年法律第145号)(以下、医薬品医療機器等法)の規定において禁止されている行為を行うこと。

2.医薬品医療機器等法第2条第15項に規定する指定薬物及び条例による知事指定薬物の他、成分の特定がされていないものであっても中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む)を有する蓋然性が高く、且つ、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物(以下危険ドラッグ等)を使用し、もしくは使用・販売・譲渡の目的で危険ドラッグ等を所持もしくは製造又は保管・貯蔵(一時的に預かる等の行為を含む)すること。

そして、各種賃貸借契約書条文に在る「貸主からの解除」のうち、無催告解除の対象となる禁止行為に上記を指定することとしました。
2015.01.05
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駐車場保証金の返還請求…返してもらえない本当の理由は?
今から8年前に自宅近くの民間月極駐車場を契約しました。月額賃料は2万円でした。その時に保証金として6万円支払ったのですが、住んでいる社宅の駐車場に空きが出たので、2ヶ月だけの契約で、直ぐに解約しました。その時にその保証金6万円は全く返金されませんでした。契約時も書面での契約書は頂いておらず、保証金の領収証だけは発行してくださいました。管理不動産会社の方には、「保証金は返金できません」と言われました。駐車場で保証金6万円は高いと思い、また解約時に返金されなかったので、記憶に残っています。この場合、保証金が返還されるようなケースでしょうか?もしそうであれば、保証金を返還してほしいのですが、無理でしょうか?教えてください。よろしくお願い致します。
ご相談の内容からは、適切なアドバイスを行うための情報が不足していますが、貴殿の本文に従い、推測の範囲を出ませんが、参考意見として述べさせて頂くことをご了承願います。
先ず、時効の問題を考えましょう。法的には債権者がその債権を請求出来るとき(権利行使可能時期=弁済期)の翌日から消滅時効が起算(進行)されます。時効を中断させるには、請求、差押、仮差押、仮処分、訴訟並びに債務者の承認のいずれかを要件としています。
本件の場合、時効の進行を止める手段を貴殿が講じたか否かは不明ですが、貴殿がこれまで時効中断に帰する行為を行ないましたか?

相談者:解約後、何度か不動産会社に電話をし、返してほしいと掛け合いました。

世間一般的には、貴殿の言われる「電話をして返せと請求した」ことは、請求行為と理解されますが、法律上の時効中断事由に挙げる「請求」は、手続が厳格に規定されています。

時効中断の効力を生ずる請求とは
裁判上の請求
支払督促の申し立て
訴訟の提起
民事調停の申し立て
即決和解の申し立て
任意出頭による訴え
破産手続き参加
更正手続き参加
再生手続き参加
裁判外の請求(催告)(中断の効力は6ヶ月間に限定されていることに注意)
内容証明郵便送付

一方、相手方不動産会社は貴殿の電話応対に際して、本件保証金について「返還する」旨の返答などはありませんでしたか?

相談者:電話に出た社員さんは、「分かりました。担当に伝えて返金させます。」と言ってくれたと記憶しています。

時効中断の事由に、「債務承認」があります。
承認とは
債務承認書(支払約定書など書面で)
一部金の弁済
支払猶予の申し入れ(相手方からの文書)

本件において、上記の一つでも貴殿が受け取られていれば、時効は中断されていると言えます。上記に挙げる手続等を執っていないとすれば、本件請求権そのものが時効に掛っている可能性が高いと思料します。(因みに本件保証金返還請求権は、当事者の一方が商人であり、商事債権とみなされ消滅時効は5年で完成されます)。なお、時効というのは、時効の利益を受ける者(債務者=本件では相手方)が、時効が完成していることを主張する(時効を援用すると言います)ことによって成立するので、時効期間が過ぎたからといって債権(請求権)が消滅するわけではありません。 時効期間が過ぎた後でも債務者に請求することはできますし、裁判や支払督促を行うこともできます。ただし、その際に債務者が時効を援用すれば、債権は消滅するということです。

次に、時効の問題は無視して、返金出来ない理由が元々あるという前提で考えるなら、当時の保証金領収書の文言に着目し、「6万円をお預かりしました」というような書き方がなされているか、確認して下さい。
契約書など書面が存在しない以上、頼りはその領収書だけですので、預り証的な証書であれば返金を求める根拠になります。
しかしながら、相手方が、「返金しない」という以上、当該金銭はもともと保証金預かり金ではなく、礼金的な性格の金銭で返金されないものであるとの主張も考えられます。要は、当該金銭が預かり金なのか、礼金なのかで結論ははっきりします。

最後は、貴殿が2ヶ月で本契約を解約したことに着目します。このとき、違約金として当該保証金を没収するというような経緯はありませんでしたか?

相談者:そんなことを言っていたような、聞いていないような。記憶にありませんが。

駐車場賃貸契約の場合、月極め駐車場の名義飛ばし(車庫証明を得る目的だけの契約締結)を抑止する目的で、短期解約のペナルティを課す契約を行うことがあります。
貴殿の行為が正にそれに該当するということは考えられませんか?そうであれば、返金しないことの理由として相手方の主張にも根拠があることになります。
ただ、本件の場合は、貴殿の主張にも相手方の主張にも証拠となる書面が残っていないということが結局は言った、言わない、の水掛け論に陥りそうです。やはり、契約というのは書面に残しておかなければ金額の大小に係わらずこのようなトラブルを引き起こすことになります。今後はこれを教訓にご注意されることを望みます。

なお、保証金の額が高いとの主張ですが、月額2万円の賃料からすれば、3ヶ月分の保証金(礼金であっても)、もしくは違約金の額が著しく高額とは言えないと思料します。

いずれにしても、書面の約定がなされていない本件では、当該金銭の返還請求は時効制度を基準に判断することとなり、相手方が援用すれば返金は難しいのではないかと考えます。
2014.10.06
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滞納家賃の回収!…立ち位置で異なる法律ロジック
生活保護を受けながら現在職探しをしています。私の住むアパートは、敷金無し、礼金無し、家賃4万円、管理会社が不動産屋で家賃はそこに振り込む契約です(契約書には家主代理人となっています)。又、入居時に家賃保証会社と保証委託契約も結ばされました(保証料4万円、2年間)。実はその家賃が払えず、すでに8ヶ月分ほど滞納が嵩んでいます。先日、大家が自宅に来て、「家賃を清算しなければ契約解除する。今月中に誠意を見せてくれなければ鍵を交換する」と言って帰りました。保証会社からは毎月督促状と電話、訪問があります(殆ど応対していません)。管理会社は二、三度家に来て、玄関に張り紙をして帰りましたが、最近は来ません(保証会社に任しているのか?)。その後、滞納した家賃を立替えて支払った保証会社から債権譲渡を受けたという別の会社から請求が来るようになりました。それぞれの立場があるとは思いますが、大家、保証会社、管理会社、債権回収業者?、それぞれに私はどう対応すれば良いでしょうか?最近は取り立ても激しくなり、ちょっと恐怖を感じています。
先ず申し上げておかなければならないことは、本来の原因は貴殿にあるということです。契約において合意した約定に従い、貴殿は部屋を使用収益する権利と引き換えに、賃料を支払い、部屋を適正に管理使用する義務を負います。その賃料支払いを怠っている貴殿にこそ債務不履行が明らかですので、関係当事者に対し早急に善処してこそ当然と思料するところです。

さて、本件契約では登場する相手方がそれぞれ当事者として関わっている部分はありますが、契約内容から関係者の態様ごとに滞納家賃回収に当たる法的なロジックを解析しておきます。
本件の場合、家主としての対応は管理会社の不動産業者が行うことになります(代理契約)。代理人の行為は、直接家主に帰属しますので、貴殿が管理会社に賃料を支払えば家主に支払ったと同じ法的効果が生じます。又、逆も同じで、管理会社の督促は、家主が行っているのと同じです。
一方、家主は不動産業者に代理権を与えているものの、貴殿との関係では依然賃貸借契約上の貸主ですから、これもまた賃料債権を有しているのであり、正当に請求権を有しています。しかし、本件では保証会社により賃料滞納分は代位弁済されているので、滞納賃料請求権は消滅していますが、貴殿のように賃料を長期間滞納する賃借人との信頼関係は破綻しているとして、契約解除権を行使することは出来ます。又、契約解除における賃貸人としての権利行使についても代理権を不動産業者に与えている場合は、管理会社も解除権を行使できます。

次に、家賃保証会社ですが、これは賃貸借契約によらず、貴殿が負担する賃料支払い債務の保証を為した「保証委託契約」に基づく契約関係であり、すでに滞納している賃料相当額を家主に対して貴殿の代わりに支払っている(代位弁済)のですから、その額に応じた求償債権を貴殿に対して取得しています。従って、保証会社は独自の求償権を行使できる立場にあり、保証委託契約による当事者同士の関係に立っています。

他方、家賃保証会社から求償債権の譲渡を受けた(買い取った)別法人については、もはや本件賃貸借契約からは分離された立場を執ることになります。
当初、貴殿が滞納していた家賃は、賃料支払い債務(履行遅滞)として存在し、代理人管理会社又は家主は賃料請求権に基づき督促することとなります。その後、保証会社によって代位弁済された賃料相当額は、管理会社及び家主に家賃として帰属します(滞納賃料請求権の消滅)。保証会社は、代位弁済に対する賃料相当額の請求権に基づき、貴殿に督促を為すのですが、一定期間経過しても支払われないときは、保証委託契約の定めに従い、求償債権を第三者へ譲渡することができるような約定になっています。そして譲渡を受けた別法人としては、もはや賃料滞納によるところとは関係なく、金銭債権の債権者として存在し、貴殿に債務の履行を請求することとなります。

その結果、貴殿は滞納家賃相当額の金銭支払い債務を債権回収業者に対して負うのであるとともに、引き続き居住を継続する本件アパートの家賃も通常通り支払っていかなければならない状況にあるのが今の貴殿の立場です。

なお、敢えて補足致しますが、保証会社が行う家賃の督促業務が、弁護士法に触れる違法な行為であるとの指摘に関し、現実に違法行為とされるのは「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で…中略、その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない」とする弁護士法72条に抵触する場合であり、本件のごとき正当な債権(代位弁済に基づく求償権の取得)を有する者が行う自己債権の督促は違法ではありません。
一方、債権回収業者なる者の行為は、同法73条「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない」(以下ただし書きで所謂サービサーを除く)との規定に正に抵触するわけですが、最高裁判所において争われた事案(ゴルフ会員権を預託金以下の金額で譲り受け、預託金返還を求めて裁判をしていた会員権売買会社について、弁護士法73条違反が問題になった事件)で最高裁は、「形式的には他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても、弊害を生じるおそれがなく、社会経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合は、弁護士法73条に違反しない(平成14年1月22日判時1775号46頁)」とし、弁護士法73条の適用についての限定解釈を示したことから、債権回収業者の業務においても、弁護士法の趣旨に弊害が無く社会的に正当な範囲であれば違法ではないというロジックで運用されています。
2014.09.05
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広い敷地の建物賃貸借…敷地利用の権利はあるか?
敷地面積が約500坪の土地に、10件ほどの店舗兼用住宅が並ぶ連棟式の建物を所有しています。店舗建物の周りは全部駐車場ですが、建物の老朽化が進み、テナントは医院1軒を残して全て退去。修繕や建て替えにはかなりのお金が掛りますので、残るテナントにも出て行ってもらいたいのですが、現在は敷地ごと好き勝手に使用されており、同様の条件の店舗など見つからないから、退去を拒否されています。

そこで、店舗の賃料とは別に、駐車場の使用料を徴収したいと思いますが、これまではそれぞれの店舗のお客さん用に使って頂いていた(駐車場使用料込みの店舗賃貸借契約)ために、改めて駐車場使用契約はおかしい、と拒否されています。この様な場合、駐車場契約は締結出来ないのでしょうか?又、利用の台数を制限したり、店舗賃料を値上げしたりすることも拒否された場合、どうしようもないのでしょうか?棚子は、「それならば老朽化した建物を大規模修繕しろ」と言っています。建物と敷地の使用とは別の問題として話していますが、折り合いが付きません。
そもそも建物賃貸借契約において、賃借人は建物の利用に通常必要となるような敷地の利用は可能です。本件では、建物に比べて敷地が広く、その敷地の全体を利用しているということですので、建物賃貸借契約の範囲における利用とはいえないと主張出来るかも知れません。

まず、その前提に立っても、長期間の使用の実態があり賃貸人側から特段の異議がなかったことから、「黙示の使用貸借契約」が成立している可能性があります。使用貸借契約が成立していれば、使用収益の目的が終了しなければ使用貸借契約が終了しませんので、駐車場としての利用という目的が終了していない以上、使用貸借契約は終了せず、賃料は請求出来ないことになります。

次に、駐車場としての使用目的が当初から明確であったか否か、仮に明確であったとしてもどの範囲においての利用となっていたのか、その他の経緯事情等から使用貸借契約が成立していないとも考えられます。
又、使用貸借契約が成立しているが、目的が定められていないという考え方も成り立ち得ます。
前者の場合は、単なる不法占拠ですから、明け渡しを求めることも、新たに駐車場賃貸借契約を締結の上、賃料請求をして頂いても問題はありません。後者の場合でも、いつでも使用貸借契約を終了させることができますので、終了させた上で明渡請求なり、賃貸借契約締結の上での賃料請求なりをすることが出来ます。
更に、使用貸借契約の成否に係わらず、新しく駐車場賃貸借契約の締結に向けた交渉をすることは全く問題なく、事案からすればそのように進めるのがよいと思われます。

一方、建物の老朽化に伴う賃借人からの要求については、経年劣化や破損等が生じても、営業や居住に支障がなければ修繕義務はないことになります。貸主の修繕義務は、民法上使用収益に必要な限度とされています。本件においては、店舗兼住宅ですので、店舗営業や居住に支障が生じるような破損等が生じた場合に貸主が修繕義務を負うことになります。又、天災等により物件の使用収益が不可能になった場合、賃貸借契約は終了します。このときも賃貸人に過失がない限り、損害賠償等の義務もありません。万一建て替えた場合でも、建て替え後の物件を元の賃借人に貸さなければならない義務はありません。

結論としては、本件賃借人は、建物周辺を漠然と使用しているだけ(互いに明確な取り決めが無い)であること、建物自体が連棟のものであり、元来他の入居者間の権利関係も不明確であると思われることを重視すれば、使用貸借契約は成立していないと考える方が合理的であるといえます。
いずれにせよ、駐車場としての使用の実態、過去の経緯等がポイントとなります。
2013.01.05
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賃貸物の所有者責任…賃料を頂くということは?
屋内駐車場を借りているのですが、その駐車場は以前物置として使っていたようで、先日車をみると雨漏りかなにかで、コンクリートが溶けだしたように車に白いものがこびりついていました。
ディーラーに見せたところ、洗車では落ちないので専門業者によるポリッシングの必要があるということで数万円の見積もりが出ました。
しかし、大家さんは自分の知り合いならもっと安く出来るので、そこに修理を頼むのなら費用を負担するが、ディーラーでは負担しないと主張しています。
こちらとしては信頼できる正規ディーラーにお願いしたいのです。
この修理代と臨時に借りている別の駐車場代を請求したいと考えていますが可能でしょうか。
さて、損害の対象となる付着物の除去(原状回復)に係る実費は、当事者同士の示談で決められるということですから、貴殿の採られた見積もりと、賃貸人の見積もりとに差異があるとしても、損害賠償の原則は金銭賠償(民法417条)であるので、賃貸人の指定工場で修理を行なわなければ修理費を負担しないという主張は認められないことになります。しかし、貴殿の見積もりに原状回復を超える作業が含まれている(例えば、ついでだから光沢加工もやってしまえ、とか、極端ですが全塗装が含まれるなど)場合、原状回復を超える部分は不当利得となり認められません。まずは、損害賠償の金額について合意することが肝要となります。
次に、本件ガレージが使用できない間の代替ガレージ費用も請求とありますが、これは貴殿の負担となり、損害賠償の対象とはなりませんので注意が必要です。つまり、損害賠償とは原状回復をいうのであり、通常負担すべき費用や付加価値を高めるものまで認める趣旨は法にはありません。今回の事故の有無に係わらず、ガレージ賃料の負担は貴殿が負うものであるので、代替場所の費用を損害と認めることは出来ません。ただし、どうしても本件ガレージ賃料より高いところしか空きが無く、その差異が一般常識に逸脱(例:ホテルの駐車場を借りたため高額な料金が発生したなど)しない程度であれば、相当因果関係が認められるとする余地はあります。

《損害賠償を請求するときの注意を教えてください。》

本件では、ガレージを使用中に露見した汚損に対し、貴殿が賃貸人に原因の改善を求めたにも係わらず放置されたため今回の被害に及んだという場合と、双方が知りえない間に起きた突発的な事故で、その原因がガレージの維持管理にあるとする場合(瑕疵のある目的物を引き渡した)とで、賃貸人の行為(損害賠償請求の根拠と行為責任)に対する考え方が変わってきます。不法行為や債務不履行が成立する場合は、相手方に故意又は過失が認められることが必要で、債務不履行が認められるには、さらに債務の履行期が到来していることが要件となります。
又、本件のような賃貸借契約が基になっている関係では、目的物の瑕疵担保責任(賃貸人の修補義務)から根拠を求めることも可能です。

《修理代の合意が得られなかった場合はどうすればよいのでしょうか?金銭賠償以外の結果が出ることもあるのでしょうか?》

合意できない場合は訴訟等法的措置に委ねる必要が生じます。その結果はやはり「被告は原告に対し、金〇〇円を支払え」となるわけですから同じことです。もし、貴殿がお車を賃貸人に預け、修理して返却を受ける方法を考えておられるなら、二次的なトラブルに発展する恐れもありますのでお勧めできません(示談内容は自由ですが)。お車の修理は貴殿が行い、代金は賃貸人が支払う(負担する)のが金銭賠償ということです。
2012.07.24
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別れた彼女と一緒には住めない!
先日、同居中の彼女と別れました。
3年間同棲していたのですが、別れたこともあり、この際引越しをしたいと彼女にも話したのですが、彼女は出て行かないと。それなら、不動産屋さんにお願いして契約者の変更を考えたのですが、彼女は無職で、それは無理だと言われました。彼女にはもう会いたくないので、私一人で先に引越し、後は勝手にさせようと思うのですが、もし、彼女が家賃を払わない場合、私が支払い義務を負わされるのでしょうか?解約の通知は管理会社に送りましたし、私の鍵も返却しました。彼女に出て行ってもらうにはどうしたらよいのでしょう?
現在の状況では、貴殿と彼女の間に無断(家主に対して)転貸とみなされる契約が存在していると考えます。従って家主の側からは契約解除が可能です。しかし、解約通知を家主側が受理したからといって、無断転借人である彼女を退去させる義務は、契約者である貴殿にあります。ですから、彼女が居座っている間は、貴殿の債務(明け渡し)不履行状態が続いていることになり、貴殿は家主から損害賠償の請求を受けることになります。元の契約書の特約に明け渡し債務の不履行について、例えば期日の超過には一日当たり金○○円の損害金とか、賃料の倍額を損害賠償額とするなどの記載があれば、原則はそれに従うことになります。
では、貴殿から彼女に退去を強制出来ないか?ですが、以前は恋愛関係にあったお二人には少々冷たい方法かも知れませんが、貴殿と家主の間にある通常の賃貸借契約を解除し、退去しない彼女を不法占有者とし、明け渡しを求めて提訴することが出来ます。この場合、賃料は依然貴殿に支払い義務がありますが、不法占有者に対して請求することも可能です。

感情のもつれから、無用なトラブルにも発展するケースですので、上記の方法を講じてでも、本物件から退去させることも辞さないことを彼女に話し、任意で退去に応じるよう説得することが得策かと、老婆心ながらご忠告申し上げます。
2011.07.15
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格差是正といわれても…賃料相場は時の運!?
賃貸住宅の家賃格差についての質問です。私が所有している賃貸マンションなのですが、隣室との家賃格差が何割か以上あれば、訴えられれば詐欺等の問題になるのでしょうか?
平成10年3月より家賃8万5千円、共益5千円、駐車場1万円、合計10万円で当初契約し、平成16年3月より家賃8万円共益込、駐車場1万円、合計9万円に賃料を下げ、現在に至っています。一方その隣の空室を共益込で家賃6万円、駐車場1万、合計7万円で新規募集しています。ご意見お聞かせください。
バブル崩壊後の賃貸市場は、それまでの右肩上がりの賃料相場が崩れ、現在では1棟の建物内においても、契約の時間的経過によって賃料に格差が広がっています。同様のケースでの賃料減額請求訴訟も事例が多く、裁判所の判断も概ね一致しており、賃借人の保護一辺倒というわけでもなさそうです。
本件の場合、平成10年入居の賃借人と現在の募集賃料の差が、2万円(1.33倍)ということですし、途中の更新時期に減額をされているようですので、何ら問題はないと考えます。また、一般的な賃貸借契約書をお使いの契約であれば、「近隣同種の賃料と比較して不相当となったときは契約期間中でも増減請求できる」という約定がされていると推測します。その場合、当然に賃借人は減額請求できますが、賃貸人が必ずしもそれに応じる必要はありません。裁判所の判断はケース・バイ・ケースですが、その根底には借地借家法第32条の規定が適用されており、特に減額に対しては「賃料が不相当」である事実さえあれば、賃借人からの減額請求を肯定しています(ただし、請求はできるが判断は別)。これは、同条1項の反対解釈として学説、判例共に通説です。
(1)「賃貸借期間は、原則として賃料の据置期間と推定する」というもので賃料の減額を認めなかった事例(東京地判昭和55年4月14日判時982号134項)。
(2)新賃借人に対して賃料、保証金を減額して賃貸したことから、既存の賃借人が減額を申し入れ、拒否されたことから賃借人が減額を希望した賃料しか支払わず、差額賃料不払いについて信頼関係が破壊され、損害を被ったとして家主が提訴した事案で、裁判所は「信頼関係の破壊に至らない特段の事由がある(賃借人の正当性を容認した)」ものとして、家主の明渡し請求を棄却し、賃料の減額を認めた事例。なお、保証金・敷金は賃料のように一方的な意思表示によって変更できる性質のものではないので減額請求は認められませんでした(名古屋地判昭和59年2月28日判時1114号56項)。
また、賃料格差が詐欺罪を構成するかというご質問ですが、詐欺罪(刑法246条)は「人を欺いて財物を交付させた者は…」という条文どおり、本件には該当しません。因みに、現在話題となっている大阪府庁移転候補先のWTC(ワールドトレードセンター)では、入居テナントの賃料格差が何と28倍にも広がっており波紋を呼んでいますが、だからといって違法であるというような判断はどこにも下されておりません。
2010.12.27
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借地権の効力…自分の建物を貸すのに地主の承諾??
不動産協会様のご活躍にはいつも敬意を表して止みません。私事で恐縮ですが、現在ある土地を借りて建物(自宅)を所有しています。このたび訳あってその住宅を他人に賃貸したいと思っていますが、土地の賃貸借契約書には地主の承諾を得なければ出来ない事項として、「賃借人が本件借地権を譲渡し、または本件土地の転賃するとき、その他名目のいかんを問わず、事実上これらと同様の結果を生ずる行為をするとき」との約定が在ります。また、「賃借人が本件土地上に所有する建物を改築または増築するときも同様とする」との特約も在ります。それらを無視して、自宅建物を賃貸したり増改築したりした場合、土地の賃貸契約は解除されてしまうのでしょうか?
まず、借地上にある建物を他人に貸した場合、建物の借主は、現実には土地も使用することとなります。しかし、法律上は、その土地を使用しているのは、建物の所有者です(土地の賃貸借契約に基づく)。建物所有者は、借地上に建物を所有することにより、当然に土地を使用しているという関係に立ちますので、原則として借地人は建物を自由に他に貸すことができるわけです。それを制限する特約は、建物所有者の権利を余りにも規制するため無効であると考えることができます。しかし、私的自治、契約自由の原則もあります。地主は、自己の土地を実際に誰が使用するかについては合理的な利害関係を有していますので、この特約(建物所有者の権利を制限する)にも合理的な理由があります。浦和地裁・昭和58年1月18日(判例タイムズ496-129)の判決は、「建物所有を目的とする土地賃貸借契約に関する調停において、借地上の建物の賃貸を禁止し、賃借人が右禁止に違反したときは、賃貸人は契約を解除することができるとし、その場合、賃借人は土地を明け渡す旨定めた調停条項に基づく土地明渡しの強制執行を認める」としました。つまり、地主と借地人の間で、建物賃貸を禁止する契約を結んだ場合、借地人がこれに違反すると、地主が土地の賃貸借契約を解除できるということです。従って、貴殿の場合も無承諾の建物賃貸を禁止するとの条項は有効となる可能性が大きいと考えます。
また、前述の論理から原則として増改築も自由と考えられます。建物所有目的で借地契約をした場合、契約の範囲内であればどんな建物を建てるかは自由ですし、その後増改築をする場合にも、原則として契約の範囲内であれば自由に行うことができるのは当然でしょう。ただし、借地契約に、増改築禁止特約が付されている場合、当該増改築によって法律上の借地期間が延長されたり、底地価格に影響を及ぼしたりすることが考えられ、地主にとって不利益になる可能性があることから、特にそのような制限を有効としているのです。
(東京地裁判決・昭和36年6月9日、増改築が地主に著しい損害を与えたとして、借地契約の解除を認めた)
2010.12.2
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家主の責任??ゲリラ豪雨の置き土産!
大阪府下のある町で貸家に住んでいる者です。先月(7月)に局地的な集中豪雨に見舞われ、庭先の灯篭(最初からこの貸家にあったもの)が倒れました。またあふれかえった我が家の汚水枡(マンホール)からヘドロが。後日、水道工事業者に見てもらったところ、ずいぶん前からのゴミや泥が詰まっていたものが、この雨で一気にあふれ出たものとわかり、灯篭の修復と併せて大家さんに依頼をしたのですが、「天災地変」の責任は免除されているはず!と言われました。ゲリラ豪雨は天災でも、ヘドロも灯篭も、もともとこの家にあったもので、そんなん要らんやん!
ご相談者の交わされた賃貸借契約がどのような内容かは分かりませんが、家主さんが「天災地変の免責」を主張されていることから、恐らく「天災地変等不可抗力による本物件の損害について、賃貸人は責任を負いません」というような免責特約が付されているものと推察します。本件の場合、集中豪雨で倒れた灯篭(本物件に付帯する施設)と、ずいぶん以前から詰まっていた汚水配管のヘドロとは、少し意味が違うものとして考えます。
先ずは灯篭ですが、貴殿が必要不要に係わらず、本物件に付帯していた施設ですから、家屋を含めて賃借人が維持管理をする責任を負っています(民法87条・主物と従物、民法594条1項・借主の使用収益、598条・借主による収去)。本件のような局地的ゲリラ豪雨は、通常予想しうる雨量を著しく上回り且つ突発的であることから、予め豪雨に備えることが難しく、これによる被害は不可抗力が認められると考えます。従って、灯篭の修復は賃借人がなすべきものと思慮いたします。
一方、汚水排水のヘドロ害は、確かに本件豪雨によって露呈した被害ですが、工事業者の見解にあるように積年の管理懈怠によるものとするならば、賃貸人が負う使用収益に適した状態の維持管理(民法606条1項・賃貸物の修繕義務)の債務不履行があるとして、生じた損害の賠償ができると考えます。実務的には、実際にあふれ出たヘドロが何時の頃から溜まっていたものか、言い換えれば家主側が本物件の管理上必要な排水経路の点検または清掃等を行なった経緯があるかを調査し、重大な管理上の落ち度があると認められれば、ヘドロの撤去及び原状回復に必要な費用の請求が可能となります。この見解を踏まえ、一度大家さんとご相談されてはいかがでしょう。
2010.9.1
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敷金礼金ゼロ&フリーレントの入居前解約!?
今春に就職する予定の新卒者です。入社式が4月1日で、即日2週間の研修があり、その後配属支店が決定すると言われていますが、地方から出てくるため、一応配属確率の高い大阪市内で部屋を押えようと思うのですが、お金も無いのでゼロゼロ、フリーレントで探し、契約だけしていた場合、万一入居前に解約したとき、何らかのペナルティは必要でしょうか?
ご質問者のように、賃貸借契約の始期がかなり先付けで、且つ100%入居が確実ではない事情をお持ちの方が特にこの季節は多く、更に不況が重なると賃貸仲介会社や賃貸物件管理会社の営業スタイルもユーザー囲い込み(青田刈り)の手法として、ご質問にあるような賃貸借契約条件(敷金なし、礼金なし、家賃発生日自由設定)を可能とするようになってきました。
ユーザーサイドからは非常に有利な条件ですので、飛びついて契約してしまうのも分かりますが、賃貸といえども一定期間、自分の城として生活の基盤を築く場所になるのですから、時間の経過と共に物件に対する不安や事情の変更等で、入居前に契約を解除することも多いと聞いています。そのような場合、契約書に記載された解約に関する特約を確認し、その約定に沿って解約することが必要となります。賃貸借契約の始期(初め)は何月何日か?始期前の解約に関する違約金等の条件はあるか?更に敷金礼金ゼロゼロの場合は家主側の逸失利益に対する損害金条項などが決められていることもありますので、しっかりと契約前に確認することが大切です。
通常の賃貸借契約における対価と比べて極端に入居者側に有利な金銭条件の場合、中途解約や入居前(契約締結後であれば法的に差異は無い)解約の損害金として、賃料の数カ月分相当額を定めていても、ケースによっては違法であるとされないこともあります。
また、賃料発生時期は契約始期(入居開始日)となっていても、但し書等で「入居予定日までに本契約を解除するときは、契約締結の日から起算した日割賃料を負担する」というような条項はよく目にします。ですから、入居日までに解約しても1円も要らないとか、とりあえず押えておいて、他に気に入る物件が出てきた時は止めればよいなどと思わず、その物件に関する契約内容の書面を確認することが必要です。
一方、家主側としても極端に短い期間での解約や、中途解約に伴うリスク回避を損害金条項等で補完することは、条件設定に関して当初から敷金礼金を課さないという内容が、借り手側の交渉を容認し、借り手に有利な条件に変更したものではないので、約定に無い損害金請求に関しては、家主有利とはなりませんので特約には配慮が必要です。
2010.2.1
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新手の振り込め詐欺か!…ミスでは済まない、管理会社の誤請求?
京都市内でワンルームマンションを借りて5年ほど住んでいます。2年ぐらい前から郵便ポストに「当マンションの管理会社が変わりました。契約書の更新事務を行いますので、賃料の1か月分相当の更新手数料が必要です。下記口座まで至急お振込み下さい。 家主○○ 新管理会社△△」という書類が投函されていました。最初は無視していたのですが今年もまた同じ書類が届いたので大家さんに電話して確認したところ、管理会社のことは知らないという返事でした。これって、新手の振り込め詐欺でしょうか?気持ち悪くって…。
主文・被告人△△を懲役三年に処する。 判決理由・被告人は当該マンションの賃借人に対し、家主○○の署名を当人の許可無く使用し事実と異なる文書を作成のうえ、更新手数料名目の金員を搾取しようと企て当該虚偽文書を作成し、当該賃借人宅の郵便受けに投函したことは、私文書偽造行使等並びに偽造私文書行使の罪に該当する。また当該賃借人においてその支払を回避したといえども詐欺罪の未遂に当たる。

(法令の適用)
罰条 刑法159条1項 同161条第1項 同246条第1項及び250条
刑種の選択 懲役刑選択
宣告刑 懲役3年

上記仮想判決文のごとく、本件ご質問の内容から導かれる結論として、もしも家主側が「許可無く自分の名前を使用され、支払根拠の無い金銭を不動産管理会社が搾取しようとした」として捜査機関(警察・検察庁)に告発したとしたら、その結末は実刑を覚悟しなければならないかも知れません。刑法159条は私文書の偽造、同161条は偽造文書の行使について、246条は詐欺罪の要件と刑罰を定めています。いかに相手方管理会社が、事務員の人為的ミスにより誤って投函されたものであるという主張を展開したとしても、当該文書に所有者○○名を記して特定表示していることから、事前に自社の管理物件であるか否かは容易に判別出来るはずであり、意図的に作成されたものと認定され、悪質で反論の余地はないと一刀両断にされるでしょう。このような事例は請求名目の違いはあっても、本質的に刑法上の詐欺罪を成立させる行為が満たされますので言い逃れが出来ません。根拠のない利益の搾取(不法領得)など人間のモラルの問題ですから、ここは思い切って最寄り警察の生活安全課にご相談されたらいかがでしょう。「ゴメンで済んだら警察いらん!!」
2009.9.1
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資材置き場の賃貸借…よくある一時使用目的の誤解!
滋賀県大津市で建設不動産を営む会社から、この度、小規模のマンションを建設するのですが、土地が狭いために、資材置き場及び現場事務所設置用に私の所有する近くの空き地を一時的に貸して欲しいと申出がありました。土地は一度貸すと二度と戻らないという話はよく聞きますが、一時使用目的の契約であれば大丈夫と言われました。この方法による賃貸借契約で、注意しなければならない点を教えて下さい。
土地の賃貸借(借地契約)は、当事者の事情における様々なパターンによって、貸主、借主いずれの側にも、その権利義務に種々の制約が生じてきます。ご質問中にもあるように、「土地は一度貸せば二度と戻らない」という云われは、近代法整備がなされた明治後期から戦前戦後にかけて、建物ノ保護ニ関スル法律(明治42年法律第40号)借地法(大正10年法律第49号)借家法(大正10年法律第50号)の制定の目的である「借りる側の保護」を基本に運用されてきた結果、地主等貸す側の心情を表現した言葉です。

しかし、本問に言う「土地の一時使用」とは、建物の所有を目的としない土地の利用ですから、前述した種々の旧法や平成4年施行の「借地借家法(平成3年法律第90号)」とは全く無縁の法律行為であり、民法601条以下の規定が適用される(モノ全般の貸借)ことになります。従って貴殿がご心配されるところの「土地は一度貸せば二度と戻らない」と云われる理由、「借地権の存続期間」「借地契約の更新」「地代増減請求権」「建物買取請求権」などは認められず(ただし、任意で約定することは可能)、一定の期間(制限なし、例えば3日間でも可能)一定の賃料を支払うことを約し、期間の満了を以って無条件で土地を明け渡すことさえ約定しておれば何ら問題は生じないのです。最近は不動産のプロの方達でも、この種の賃貸借と、建物所有目的の一時使用賃貸借を混同し、単なる資材置き場の賃貸借契約や駐車場使用契約にさえ、借地借家法の規定を意識しすぎる約款を目にします。大切なことは、賃貸借の大分類を目的が建物所有か非所有かで分けることなのです。

さて、ご質問者のなされようとする契約に必要な特約を最低限にまとめると次のとおりとなります。
  1. 契約の目的を明確に規定すること(建物非所有一時使用目的であること)
  2. 契約の存続期間を設定すること(更新を承諾する場合も回数、期間を明示すること)
  3. 現場事務所等の設置を承諾する場合も簡易な構築物に限り設置可能とし(宿舎等生活施設は避けるほうが無難)、登記させない旨を明確に記すること
  4. 賃貸人の義務について使用方法に沿った範囲で必要な規定をしておくこと
2009.3.2
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外はカラカラ、中はベチョベチョ…結露は誰の責任か!
昨年の秋口に今のマンション(鉄筋コンクリート造・築13年)に引っ越してきました。冬場に入り、部屋の中がものすごい結露で、タンスの裏などはクロスにカビが生えている始末です。あちこちに結露対策の水取りパックを置いていますが、子供も小さいので健康にも良くないし、引越しを考えています。入居して数ヶ月、せめて家主に敷金・礼金全額を返してもらうか、引越し代を請求したいのですが、入居者の不注意と言われ、頭に来ています。
賃貸、分譲を問わず、鉄筋コンクリートのマンションなどにお住まいの方から多数寄せられるご相談です。本来であれば、結露の原因を調査し、責任の所在を明らかにすることが解決の方法を探る上で重要なのですが、分譲物件ならまだしも、賃貸物件ともなれば、そこまで手間隙、お金を掛けて調査するわけにもいかず、入居者は諦めるしか選択の余地が無いのが実情のようです。

さて当該マンションは、建築後13年が経過しており、客観的には躯体構造のコンクリートが完全に乾き切っていない「内部結露」と言われる現象の可能性は低いと思われ、室内の温度と外気温の差、及び室内空気の循環の悪さから生じる「表面結露」の可能性が高いと推察いたします。また当該マンションの立地条件が、湿気の多い場所(山の斜面、海、河川の近くなど)に在り、日照通風条件が劣っている(居室が北側に位置するなど)ような場合ならば、尚更結露発生条件が揃っていますので、その住まい方には通常以上に結露に対する特別な対処が求められます。このような自然現象的な事象を予め契約内容に規定することは非常に難しく、裁判所は時に「通常一般人の許容し得る範囲を超える損害」とか「最低限度補償された生活を営む権利を阻害する程度の被害」というような表現を引用し、その害が入居者の責めに帰すべからざる事由(賃貸物本体の欠陥)により発生したと認められる場合に、家主側の債務不履行(賃貸物の管理義務・民法 606条)を認めることもありますが、それ以外は、法的に判断を求めることは容易ではなく、やはり住まう側の努力に委ねられる部分が大きい問題と言えます。

なお、入居者が結露の予防または対処を怠ったために、居室にカビを生じさせ、多額の工事費用が必要であることは、通常の使用における損耗とは言えず、賃借人が負うべき賃借物の引渡しに注意義務(善良な管理者の注意義務・民法400条)違反があるとして、損害賠償を請求されることもよくある事例ですから、マンションの賃借人は結露対策に充分注意が必要なのです。
2009.2.2
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「管理」という響きに潜む落とし穴…人任せは危険がいっぱい?
京都市内に複数のワンルームマンションを所有し、賃貸しています。この度、入居者管理を委託していた不動産業者が行方不明となり、集金した賃料が振り込まれていません。店舗も、もぬけの殻で、担当者や代表者との連絡も取れなくなり、困っています。貴協会の保証協会では、このような場合、持ち逃げした家賃を保証してくれるのでしょうか。
最近、不況のあおりを受けて、このような心苦しいご相談を受けることが多くなりました。被害者の家主さんには大変お気の毒で、掛ける言葉も見つかりません。一番悪いのは当然家賃を持ち逃げした不動産業者なのですが、保証協会ではこのような業務を「宅地建物の取引」とは認めておらず、家主と不動産業者の間に結ばれた「賃料集金代行」の業務委託契約として分離しています。いわゆる「宅地建物の取引に関連して」発生した債権とは認めていないという立場です。従って、保証協会からの弁済は、期待出来そうにありません。

このようなケースでは、賃貸借契約の当事者は貴殿と賃借人であり、家賃の支払い先が当該不動産会社となっている場合がほとんどですから、貴殿は賃貸人として直ちに賃料の支払い先の変更を賃借人に通知し、これ以上被害が増すのを食い止めて下さい。その上で、弁護士等の専門家にご相談され、当該不動産業者との委託契約を解除し、取り込まれた賃料の返還請求を行なって下さい。

賃貸借における業態は、不動産業者自ら貸主または借主、仲介(媒介)業務、代理業務に分類できますが、保証協会の弁済業務の対象となる行為は、宅地建物取引業者が行なう業務(宅地建物取引業)の範疇であり、宅地建物取引業法第2条1項2号の規定により、貸借の代理、媒介しか含まれていません。つまり、不動産業者が借主である場合の賃料不払いであるとか、本件のような賃料の集金代行契約の債務不履行は、保証協会の認証債権とはならないとしています。

不動産業者の中には、賃料集金や賃料不払いの賃借人に対する督促を請け負う「入居者管理」を強く家主に勧める業者もいるようですが、家主としては、係る業者との信頼関係を充分に構築した上で、当該業務の委託を検討されるよう願って止みません。
2008.9.2
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我が家も禁煙!?…タバコ愛好家の嘆き
大阪で賃貸マンションに5年間ほど居住しています。この度、転居を考えていますが、私はヘビースモーカーで、部屋の壁、天井はけっこうヤニで煤けています。最近、タバコが社会問題となっており、部屋を明渡す際に家主さんからそのあたりを指摘されるのではないかと危惧しています。勿論契約書には禁煙の特約などはありませんし、敷引きは家賃の4か月分ほどを支払っています。ヤニ汚れによる費用を負担しなければならないのか、また今後、タバコ禁止とかの特約を付けられる可能性とか、教えて頂きたいです。
最近は、賃貸借契約の開始、終了時における目的物の原状回復に伴う様々な判断や事例がインターネットなどでも多く取り上げられています。しかし、明確な基準や法律が存在するわけではないので、個々のケースで判断が分かれるところですから、本件も貴殿のケースにおいて判断をさせて頂きます。

まず、貴殿の場合、当該喫煙による部屋の汚損に対する原状回復が賃借人負担となるかですが、居住年数5年、契約内容に特に喫煙に関する特約は存在せず、敷引きという賃借人が無条件で負担する金銭対価が賃料の4月分、及び関西圏の商習慣等から判断すれば、貴殿の負担は無いと考えられます。

原状回復を賃借人負担とするには、契約の締結時に負担箇所及び具体的な範囲を明確に定め、賃料その他の金銭的条件と照らして経済的均衡が著しく賃借人に不利益でないことが前提となるからです(借地借家法、消費者契約法、判例等)。この判断基準は、具体的な判例や、国土交通省を始めとして地方行政機関が示しているガイドライン、運用指針などを援用する前に前提となるものですから、原状回復の本質をここで振り分ける必要があります。

次に、今後の賃貸市場において、タバコを取り巻く環境が変化するかどうかですが、ご指摘のとおり、社会問題化する喫煙の弊害として、貸室のヤニ、臭いなどの汚損は通常の使用とは区別され、特殊な使用用途に分類されることも遠くない現実かも知れません。愛好家には実に気の毒ですが、近い将来、禁煙物件や喫煙特約(汚損は賃借人負担で原状回復)などが当たり前になる様相を社会情勢は示唆しています。敷金等に関する考え方も賃借人の利益に傾くにつれ、家主側としても契約条件に原状回復を賃借人負担とさせるべく、詳細な区分を定める傾向が予想されます。経費の軽減を考えることは当然の結果だからです。

「タバコ吸います?じゃあ、家賃、敷金3割増しね!!」
2008.6.24
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賃貸人の破産…敷金取り戻しの分かれ目は?
平成6年に現在の住居を借り、今も住み続けています。先日、大家さんが来られて「実は近々個人破産をすると思うので、今後のことは債権者の銀行と相談して欲しい」と言われました。この家の契約は、敷金30万円、礼金10万円、家賃は5万円です。契約の時点では銀行からの借金は無く、登記簿もきれいなものでしたが、4年目の平成10年に銀行の抵当権が付いたようです。その後、平成11年に初めて更新の契約を言われ、新しい契約書に署名しましたが、条件は変わらずでしたので、気にも留めていませんでした。契約期間は平成11年から2年間、更新可能で、その後はまた更新契約を行なっていません。大家さんが破産した時、預けた敷金はどうなるのか、また、所有者が変わった場合、ここに住み続けることができるのかを教えてください。
民法619条に規定される「黙示の更新」は、一般的に法定更新と言われ、不動産業界では頻繁に使用される便利な文言となっています。
しかし、通常の賃貸借(この場合は借地や借家を例にとる)契約の約定を見ると、本来の意味での法定更新が適用されている例は非常に少ないということを申し上げておきます。
なぜなら、不動産業界が使用している一般的な約款には、もともと合意による更新を規定し、短期賃貸借(民法602条・平成15年改正により16年3月31 日廃止)の制度を取り入れる慣習などから、建物3年以内(土地については5年以内)の契約期間を定めるものが殆どであり、期間満了の都度更新契約を締結する煩わしさを省くために「双方異議を申し立てないときは従前と同一の内容で更新される」との特約により、期間の満了後も賃貸借契約を継続していることを前提とした法定更新とは区別しているからです。

さて、質問者の場合は、契約期間満了前(平成11年)に改めて契約を締結していることから、合意更新とは異なり契約更改と見ることもできます。
その場合は、従前の契約は終了(解約)しており、更改時より新たな賃貸借契約が効力を生じますので、貴殿は平成10年の抵当権に劣後する賃借人ということになりますが、契約期間2年の短期賃貸借は旧法の適用を受けており、家主の破産により抵当権が実行されたといえども、平成21年までは賃借権を対抗できます。
それ以後は競売によって当該借家を買い受けた第三者の明渡し請求後3ヶ月で契約は終了し、借家を明渡さなければなりませんが、敷金返還は買受人に請求することができます。

もし、契約更改が平成16年4月1日以降になされておれば、競売による買受人の明渡しを拒むことができる期間は請求後6ヶ月となり、更に敷金返還を買受人に請求できず、敷金は諦めねばならなかったかもしれませんね。
2008.5.2
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敷金を返して!!…家主さんちょっとやりすぎ?
退去後、契約書記載の日数を過ぎても保証金が返ってきません。大家に問い合わせすると「原状回復の必要があるので契約書通りの差額だけでは足りない」といわれました。管理業者に相談しても「こちらが仲介したわけではないので…」と取り合ってもらえず、「直接当人同士で話あって下さいと」言われました。契約書には保証金40万、解約時25万差し引き、残りを返すという契約です。居住年数は10年近くになりますが特に設備が使えなくなっているわけではなく、大きく目立つ破損はありません。入居前何箇所かキズや設備の傷みがありましたが、支障がないので了承の上入居。その後、大家が何度か替わり、その損傷箇所が入居前のものかは実証できません。証拠がないと現在の住人の責任で原状回復請求されるのでしょうか?
賃貸マンションの家主は、不動産投資の収支バランスの中で保有物件の売却購入を繰り返し、賃料収入のみならず売却利益も想定して資産運用をするケースはよく見られる形態です。一方、賃借人の側からすれば家主が誰であっても、賃貸借契約の終了時点で当該貸し室の明け渡しに対する原状回復及び毀損部分の賠償責任は負わなければなりません(民法598条、415条)。

まず、毀損部分の判断ですが、当該物件の居住年数及び築年数を考慮し、通常の使用を継続すれば当然に劣化・故障するであろう損傷や毀損(例えばクロスや床の汚れ、破れ、傷、機械設備の経年による動作不良等)は原状回復には含まれず、引き渡し時の状態で返還すれば足りると考えられています。なぜなら、家主はそのようなリスクを賃料や敷引き金という金銭対価で補うことが求められているからで、「入居時点の原状=新調」という解釈で賃借人から改修工事費や修理交換費用を請求することは、契約に特段の合意が無い限り不当利得(民法703条)と判断されます。

次に本件毀損部分を予め知っていたにも係わらず、新家主に通知しなかったのは生活に支障の無い程度の毀損(日常生活で起こり得る破損)であったからと言うのであれば、これ自体、損害賠償の対象では無いと言えることになり、「誰が何時」ということや、証拠の有無を問題にせずとも、家主が負うべき「賃貸物を通常の使用に適する状態に維持する義務(民法606条)」の範囲に含み、貴殿の債務では無いと解釈出来るかもしれません。

また、管理業者が非協力的なようですが、投資物件のオーナーチェンジで所有者変更に伴う事務手続きを代行する業者と、貴殿が斡旋を受けた元の賃貸業者とが異なる場合、当時の事情も把握していない業者が仲裁に入るよりも、貴殿と家主及び中立な立場の専門家を挟むほうが良いのではないかと考えます。家主からの請求に納得出来ないというのであれば、弁護士などに保証金預かり金の返還請求を依頼されてはいかがでしょうか。
2007.12.1
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賃貸借契約の原状回復…賃借人の反逆か!?
店舗を貸しておりましたが、この度30年間借りてもらっていた賃借人より解約の申し出がありました。先日、物件を見に行ったところ、外壁に、看板、クーラーの室外機2台が取り付けられており、厨房内の設備も賃借人の不要な業務用の冷蔵庫、流し台、アイスマシン、なべ、ザル、お椀、、椅子、布団等は置いて行くとの事です。契約書には原状回復の条項が入っておりますが、賃借人の言い分は「もともと借りた時はバーの店舗の居抜きで、カウンターなどがあり、約800万円を掛けて店舗(丼屋)に改装した。その時もバーの什器、設備は置いたままであった。だから自分も同じようにする。」との事です。賃借人のこの言い分は認められるのでしょうか?
賃貸借契約の終了(終了原因の如何を問わず)にともなう賃借人の原状回復義務とは、当該店舗を賃貸人の支配下に戻すという、賃借物の返還義務を言います(民法545条)。これは不動産の場合、一般的に明渡しと言われる行為で、巷で問題になっている「貸したときの状態にするため、部屋の中をリフォームして返す」というような意味ではありません。したがって、本件ご質問にある賃借人の所有物(冷蔵庫や什器備品など)をどちらが処分しなければならないかという問題と、原状回復との問題は全く別の次元だということを、まず認識してください。
そのうえで本件賃借人の行為は、通常の明渡しに際して、社会通念上行うべき自己所有動産の撤去処分(いわゆる後片づけや掃除というレベル)をせずに明渡そうとするものですから、貴殿はその処分を当然請求することが出来ます。また、賃借人がそのまま放置することを希望するのであれば、その処分費用を賃借人に請求(支払いを拒むときは、預かり敷金から相殺することを請求)出来るでしょう。ただし、その際には賃借人より残置物の放棄及び処分を依頼する内容の書面を取っておくこと、また処分費用を敷金から相殺することの承諾を得ておくことが必要です。
その他、本件賃借人の言い分から察すると、賃借人が契約当初から現在に至るまで、賃貸人の承諾を得て付加した造作で、当該店舗の経済的価値を高める部分(トイレや流し台設備、定着しているカウンターや電気、ガスの配線配管設備など)については、撤去処分どころか造作買取請求の対象として、時価で買い取るよう貴殿に請求してくることも覚悟しなければなりません。たとえ契約書に「造作買取請求権を放棄する」特約がされていたとしても、30年前の契約であれば旧借家法5条(強行法規)が適用され、当該特約は無効となりますので念のため申し添えます。
2007.6.2
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賃貸借契約の中途解約違約金…そんなのあり?
来月頭に賃貸で借りた部屋を退去し実家に戻ることになりました。今の部屋は昨年12月に入居したばかりですので 4ヶ月での退去になります。契約条件は敷金1ヶ月・礼金1.5ヶ月です。契約書には1年未満の解約時に賃料1ヶ月分の違約金を支払うとの事項がありました。敷金・礼金ゼロの物件であれば、違約金を支払うという項目があるのは頷けるのですが、礼金も敷金もちゃんと支払っていて違約金を支払うのは納得できません。法令上では、支払わなくてはならないのでしょうか?
当該契約が例えば2年間の期間を定めた賃貸借であるとするなら、家主は2年の期間、一応家賃を受け取ることの出来る権利を得ることになります(期待利益)。一方貴殿はその期間居住する権利と引き換えに、賃料支払い債務を負うことになります。したがって、本件特約の目的を推察してみると、契約期間を定めた賃貸借の場合、期間途中で契約を終了させるとすると少なからず当事者の一方に損害を与えることになることから、当該特約には根拠があるということでしょうか。

一方、当該契約には恐らく「契約期間中貸主・借主は契約の解除をなすことが出来る…」という中途解約に関する特約(解約権留保)が盛り込まれていると思います。この特約は、ごく一般的に利用されているもので、定期借家契約で特殊なものを除き、当事者の自由を制限しないためのものですが、貸主の解約権行使には正当事由が必要とされ、借主の権利がより強く保護されています。本件の場合もその特約に基づき正当な権利として中途解約をなされたものと推測いたしますが、特約条項に解約予告期間の定め(例えば、借主は契約終了の○ヶ月前までに貸主に対して通知しなければならない…)があれば、予告期間分の賃料が解約に際して家主の逸失利益に対する損害金又は中途解約に関する違約金とみることが出来る場合もあります。しかし、その期間が1ヶ月程度で、それ以外に1ヶ月分の家賃相当の違約金を中途解約時に科すという特約が、著しく借主に不利で、当該契約の解約に際して家主が被る平均的損害(逸失利益)を超えているといえるかどうかを考えねばなりません(民法617条では期間の定めの無い契約を終了させる場合、解約の申し入れから3ヶ月で契約は消滅すると規定しています。同条準用618条・解約権の留保及び消費者契約法9条1項・消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効を参照)。

したがって、解約権が留保されている契約の場合は、貴殿が4ヶ月で契約を解約されても契約違反ではありません。しかし、前述した家主の期待利益を損なうことは事実であり、経済的均衡を考慮すると一定の違約損害金を規定することもまた違法な契約とはいえないのです(民法420条)。

参考:本来、契約の内容は当事者の合意によって自由に取り決めることができるのが原則ですが、借地借家法では一定の事項について「契約自由の原則」を排除しています(借家の場合は、同法30条が、更新拒絶や解約申し入れの要件を定めた26条から28条、期間を定めた29条、その他37条で、借家の対抗力を定めた31条、転借人保護規定の34条、借地上の借家人保護規定の35条に関する特約で賃借人に不利な特約は無効としています)。しかし、当該違約金支払い特約の有効性については借地借家法の規定には触れられておらず、そのことを定めた本件特約を借地借家法に基づき無効とはいえませんので、念のため申し添えます。

解決!ビビット
2007.3.30
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「ここも、あそこも直してよ!」…借家人の印籠!民法601条
このたび、不動産業者の仲介で中古の一戸建てに賃貸で入居しました。引越してから気づいたことですが、お風呂の換気乾燥機の乾燥機能が作動せず、網戸が破れていたり、雨戸が不具合だったりと、あちこちに修理が必要でした。しかし、家主や不動産業者は、現状で引き渡しているもので、新築ではないし、使える部分だけ使って、修理をしたければ自分で直せ、との態度です。これからも不具合が出てきたらと不安です。
賃貸借における修繕義務の区分には、3つのパターンが考えられます。一つ目は契約の時点で発見された不具合の修理。二つ目は契約期間中に出てきた不具合。三つ目は契約の終了後(現状回復)に際しての修理修繕です。

さて、本件の場合は入居してから分かった不具合ということですから、契約期間中の修繕に関する部分と、最初から故障していたと思われる箇所が有りそうですから契約時点での問題との両面で検討することにします。

まず、賃貸人(家主)が目的物(本件では居住用建物)を賃貸する場合、居住に適した状態で目的物を引き渡す義務を負います(民法601条)。本件のような設備に関しては、やはり契約時点での取り決めが焦点となります。つまり、契約内容に設備の有無、その状態が説明されており、当事者が合意のうえで締結した内容についてはそれに従います。しかし、単に設備有りの説明だけで引渡し時の状態が不明若しくは最初から作動不良のような場合は、借主として使用できるものと信じて契約したことに過失はなく、使える状態に修理するよう請求することができます。途中で故障した場合も同様に考えますので、家主は特に機械設備についての修補責任の取り決めを、契約時点でされることをお勧めします(例・本物件に付帯する換気乾燥機については、引越し後○ケ月以内に故障した時は賃貸人が修理するものとし、それ以後の故障については賃借人の負担とする特約)。

また、契約時点では見落としていた破損箇所など入居してから気づくというケースはよくあることですが、現地確認の際、一般的に見つけられるような部分はいわゆる「瑕疵」には当たらず、入居後に修理を依頼しても家主の側から「現状で」と言われることが多々あります。このような場合も契約時点での状態の説明が重要ですが、軽微な補修箇所の場合は「居住に適さない状態」とまでは言えず、現状の範囲に含まれると考えますので「あれもこれも」とはいかないかもしれません。仲介業者も賃貸借のような継続的契約においては、契約終了後もなお仲介の責任を問われることがよくありますので、斡旋する物件の現状把握と当事者の合意を書面で得るよう調査と説明が必要で、その義務を怠っては不測の債務不履行責任を負わされることに注意が必要です。
2006.12.15
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隣家から被った損害に対する家主からの保障は?
賃貸アパート借主のものですが、先日賃貸アパート敷地内に隣接する空き家の隣家が老朽のため倒壊し、その家屋が借主である私の自家用車の上に落下し、損害を被りました。その後、倒壊した家屋の家主が、登記上不明で持ち主が分かりません。この場合、自家用車の修理費用は賃貸主である大家に全額請求をしてもよろしいのでしょうか?(尚、倒壊直後に大家の方には口頭で修理費を出していただく了解を得ていたのですが、修理後の請求書を渡した後全額は払えないとの答えでした。)
ご質問者の不運にはお見舞い申し上げます。

さて、貴殿が被った損害(自動車の破損)は一体誰の責任なのでしょう。本件のような場合、老朽化した家屋を危険な状態で放置していた倒壊家屋の所有者に責任があるということは疑いのないところです。しかし、当該家屋の所有者が不明であるため、駐車場の所有者である家主に対して破損自動車の修理費用を請求できるかというご質問の答としては、「甚だ無理がある」といわざるを得ません。

損害賠償の制度は(1)損害賠償の認定(2)損害の類型(3)賠償の方法という諸点を関係付けなければなりません。本件の場合は(1)隣家倒壊による自家用車(貴殿の財産)の破損は、倒壊の恐れがある家屋を放置した隣家所有者の不法行為により、(2)貴殿の財産に与えた損害と隣家所有者の放置行為には因果関係が認められ、(3)原状回復に必要な自動車の修理費用及び、付帯費用(修理期間中の交通費など)が金銭によって賠償されます。やはり、本件の相手方は当該家屋の所有者であり、アパートの家主には賠償を請求する根拠がありません。ただし、貴殿と家主との間において本件駐車場の使用につき、予め隣家家屋が倒壊したときの賠償や自然災害などの不可効力について賃借人の損害担保特約などが存在すれば、契約として金銭の補填を受けることは可能です。しかし、一般的には駐車場内の事故については賃貸人は責任を負わない旨の免責特約が主流であり、このような取り決めは稀であるといえます。

したがって、アパートの家主が修理費用の一部でも補填してくれる(恐らく見舞金という趣旨)というのは貴殿にとってはありがたいことですから、あまり無茶を言わないほうが得策であると考えます。

なお、民法606条は賃貸人の修繕義務について規定していますが、これはあくまで賃貸借の目的物(当該アパート又は付属物としての敷地内駐車場)に関し、修繕が必要な事態が発生した時の規定ですから、本件について類推して適用はできません。
2006.12.15
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「土地上の構造物の賃貸借」…借地か借家か・その法律関係は?
所有している100坪の遊休地に簡易なテント張りの倉庫を構築して賃貸したいと思っていますが、土地を貸すのではありません。
しかし、テント倉庫を使用するためには当然空き地部分の使用も必要になる(駐車スペースや侵入のため)ので、この場合の契約の方法を教えてください。
ご質問の意図は、簡易構造物(法律上建物か否か)の賃貸借契約を結んだ時に、周りの空き地部分の土地もその対象とされ、土地の賃貸借契約としての効力を生じるのか、また、簡易テント倉庫が建物賃貸借とみなされるのか、その法律関係がわからないので、契約の目的と方法及び内容を整理して解説してほしい、ということですね。紙面の都合上、以下に要点をまとめて記載しますのでご参考ください。
  1. 簡易テント張り倉庫は「建物」か?
    法律上も判例も土地に定着性のない構築物は建物と認めず、いわゆる「借家」の対象にはならないとしています。したがって本件テント倉庫の賃貸借は借地借家法の適用は受けず、民法上の賃貸借の規定(民法601条以下)が適用されます。
  2. 本件は土地賃貸借に該当するか?
    テント倉庫の賃貸借に伴って利用せざるを得ない空き地部分の法律関係は、主たる目的に付随する使用貸借または包括的利用権として、合理的な範囲において認められると解されていますので、借地のように物権的権利(地上権その他用益物権による利用権)を有する契約形態を採る必要はありません。
  3. 本件賃貸借契約の方法とその内容は?
    本件の場合は、契約の目的を当該土地上に構築した貸主所有の簡易テント張り倉庫の賃貸借契約とし、空き地部分の使用方法及び禁止事項等については当事者が合意した取り決めを約定し、契約期間、期間途中の契約の解除に関する事項、賃料、敷金等の内容を約定します。また、本件では借地借家法の適用はありませんので、契約期間満了時において契約を修了させるにあたり貸主の正当事由は必要なく、民法617条以下の規定をもとに目的物の明け渡しについての取り決めをなされておけば、賃借人が空き地を約定範囲外に使用したり、契約の修了時に明け渡しを拒んだりしても貴殿の不利にはならないでしょう。
2006.9.15
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「賃貸借契約成立後の解除」…解除か?解約か?
このたび息子が神戸市内の大学に合格いたしました。そこで急ぎ下宿先を探さねばならず、大学近くのワンルームマンションを不動産屋さんの斡旋で契約いたしました。2月の終わりに必要経費をすべて振り込み、契約書も必要書類をそろえて届け、部屋の鍵をもらいました。3月初旬に引越しをしたところ、内覧時に気づかなかった不具合や約束のクリーニングが不良で不動産会社や家主の対応も最悪。結局この部屋には住みたくないので契約を白紙に戻したいのですが「契約はすでに成立しており、契約書どおりの解約扱いとなります」と言われました。白紙解約には出来ないでしょうか?
ご質問の内容から察するに、本件賃貸借契約は一応成立しているとしてお答えいたします。賃貸借契約の目的物に通常予見し得ない不具合や瑕疵があり生活上修復を要するような場合は、当然に家主の責任においてその修補をしなければなりません。もし、家主の対応が悪く、中々らちが明かないような時は賃借人の側でその修補を為し、掛かった費用を必要経費として請求又は家主が払わないことも予想できますので賃料債務と相殺すれば解決いたします。

(民法606条・608条・505条) しかし、「このような気分を害する物件には住みたくない、白紙解除したい」とご相談にこられる入居者の方々が非常に多いのです。にわか知識を盾に「要素の錯誤」だ、「信頼関係の破綻」だと騒ぎ、仲介会社の重要事項説明の不備や契約誘引の営業トークに「詐欺だ、脅迫だ、損害賠償だ!」と迫る消費者もおられます。あえて言わせていただくと、とりわけ賃貸専科の業態をお持ちの業者さんには「完璧」と胸を張れる仕事をされていない諸氏も結構おられ、渋々消費者の言いなりにならざるを得ない残念な結果に…。ここは自社の業務内容をしっかりチェックいただき、足元を見られることのないようご注意を。
この手のトラブルの処方箋は言うまでも無く「契約内容、物件細部の確認及び説明、報告と万一の際の誠実な対応」に尽きます。しかし、すこぶる理不尽な消費者に対抗するための重要事項説明時における契約解除に関する説明の補足を伝授いたします。 賃貸借のような継続的契約関係を遡及的に無効(解除・民法545条1項)とすることはできません(民法602条)。また解約原因として一方に債務不履行があった場合でも、当事者間の信頼関係を破綻させるような背信的債務不履行があった場合のみ、将来に向かって契約の無効「解約」を主張することが出来ます(賃貸借契約の解約=不遡及的無効)。(民法612条、借地借家法26条・27条)
2006.3.15
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賃貸マンションの設備修繕義務…修理するのはどっち?
大阪市内で賃貸マンションを借りています。入居して3ヶ月が過ぎた頃、トイレの水が止まらなくなりました。直してほしいと不動産会社に電話したところ、「居住中の小修理は入居者が直すもの。自分で手配してくれと家主が言っている」と。弁護士さんに聞くと「生活上必要な設備の修理は必要費として、家主に請求できる」と言われました。修理したけど払ってもらえますか。
ご質問の回答をズバッとお答えするには契約の内容及び使用の状態が不明ですから少々乱暴といわざるをえません。この手のトラブルは双方の事情や契約内容を勘案したうえで客観的判断を下すためのチェックフローを参考に、ご自分の場合を当てはめてお考えください。

(1)賃貸借契約書に小規模修繕の特約があり、そこに水道修理の負担区分が示されている。まずは契約書を確認。水道設備の修理(パッキンや現状ついているカラン等の経年変化による修繕区分)が賃借人負担になっていれば、契約時の現状での引き渡しに合意したのであるからその後の修理は貴殿がすべきとなる。(東京都賃貸住宅紛争防止条例参照)

(2)賃料の額を通常の相場を著しく逸脱して低額に抑えてもらった。賃料交渉が貴殿の有利に成立。経済的利益の均衝を考え、何でもかんでも家主に請求という論理が通らないこともある。この場合は費用を一部負担してもらうなどの交渉を。また反対(賃料が相場より高額)の場合も同様の解釈が可能と考えます。

(3)分譲貸しマンション等以外で賃料以外に相当の共益費・管理費を別に支払っている。
賃料以外に共益費等を相当額支払っており、その目的が曖昧で物件の維持管理に包括されているような場合は、その費用を修繕に当てるべき主張に根拠があると考えてもよいでしょう。

(4)漏水原因が水道管自体の腐食による。又はパッキン、カラン等の消耗部位による。


(1)xA隈3)までのチェックフローに該当しない場合、漏水の原因箇所、経過年数に係わらず民法601条、606条により家主が負担しなければならないと考えます。家主が支払いを拒否する場合は、賃料との相殺を主張できます。

「天の声」…家主さんは契約書を甘く考えず、負担区分を明確(ただし、賃借人に著しく不利な特約は無効)にし、契約時に賃借人に対し、しっかり説明を。また賃借人は少々の修理はご自分でトライしてみては。住まいの愛着が持てますよ!
2006.2.15
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賃貸契約の成立…天の声!
賃貸マンションを借りようと思い、不動産会社にて紹介された部屋を気に入り申込金として2万円を預けてきました。その夜留守電に不動産会社から「家主の承諾を頂きましたので」とメッセージが入っていましたが、気が変わりキャンセルすることにしました。翌日すぐに不動産会社に連絡したのですが、「家主が承諾したので契約は成立しています。申込金は手付金となっています(預かり証に記載有)ので没収します。」と言われ、返金できないとのこと。業界の慣習や返金できない法的根拠を教えて下さい。
最も相談の多いトラブルとしてあまねく指導助言を行ってまいりましたが、一向に減らないこの事案に関して、ご相談者及び会員諸氏に「天の声」を!以下、時系列に契約の成立と手付金、報酬の請求可否を解説しますのでしっかりと理解運用してください。

  1. 案内、資料作成・送付、交渉などの実質的労役(業務行為)に関しての報酬請求。
    「不可」→宅地建物取引業者は民事仲介人として契約成立をもって報酬請求権を取得する。(商法4条1項、502条11号より550条1項、546条類推適用・宅地建物取引業法35条、37条)
  2. 申込金を預かる行為。
    「事務管理」→順位の保全、借主の意思確認のために金銭を預かる行為は準法律行為であって、本人の意思に従い本人の利益の為に行う義務を負う。(民法697条・宅地建物取引業法47条の二3項、同法施行規則16条の十二2号により返還を拒めない)
  3. 申込金を手付金として家主に交付する行為。
    「契約の成立後、借主の委任がなければ無効」→申込金として預かった金銭は、当事者双方の意思の合致後、宅建業者としての業務(35条説明、37条書面交付)を完了(当事者の署名捺印まで)させた後、借主の真意に基づき別個の法律行為として、改めて手付金として交付することの委任を受けなければ手付金としての効力を生じない。(民法697条以下・最高裁判所例昭和36.11.30民集15.10.2629.また家主は不当利得にあたる・703条)
  4. 申込金を業者報酬として没収する行為。
    「不可」→手付金であるので返還できないといいながら業者が没収する行為は詐欺罪が成立する。(刑法246条・民法703条不当利得、709条不法行為)

以上、貴殿のケースに当てはめて不動産会社と話し合ってください。 ただし、故意に契約の成立を妨げる悪意があれば、条件成就(民法130条)により契約成立とみなされる場合もありますのでご忠告申し上げます。
2005.11.15
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火事を出した責任は?
賃貸マンションを借りて住んでいますが、契約の時に火災保険に加入しました。その保険には「借家人賠償責任担保特約」というのが付いているのですが、失火については法的な責任を問われないと以前耳にしたことがあります。こんな特約が必要なのでしょうか。教えてください。
人が生活していくうえで危険はつき物。「もしも火事をだしたら」と思うと火災保険に入らずには夜もおちおち眠れない。ってわけで、火災保険に加入するのですが、特に賃貸物件にお住まいの方はご自分の火災保険契約内容について、ほとんど理解していないのが現状です。ここで、ご質問の問題点を整理してみましょう。

  1. (1)「失火については法的責任を問われないのか」
    一般的に故意または過失によって他人に損害を与えた場合、その者は損害賠償の責任を負います(民法709条・不法行為)。ならば火事を出し、隣家隣人、家主にまで損害を与えた火元の行為は(故意・軽過失、重過失を含む)まさに不法行為であり、当然損害賠償責任を問われそうですが、失火ノ責任ニ関スル法律
    明治32・3・8法40施行明治32・3・28「民法709条ノ規定ハ失火ノ場合ニ適用セス但シ失火者ニ重大ナ過失アリタルトキハ此の限りにアラス。」の規定により、故意・重過失を除き免責されます。
  2. (2)「法的責任とは不法行為責任だけか」
    隣家隣人、家主に対する不法行為責任は免責されても、賃貸借の規定(賃貸物の現状回復、管理保管責任、契約修了時の返還義務)に照らし家主に対して契約どおりの債務の履行ができなければ、その損害を賠償しなければなりません(民法415条・債務不履行)。この部分は失火による不法行為とはまったく別の法的責任なのです。
  3. (3)「借家人賠償責任担保特約」は必要か
    この特約はまさに(2)の債務不履行による家主からの損害賠償請求に対する補償を担保するものですから、借家人には不可欠の特約といってもいいでしょう。 なお、アパートの1室を借りて失火し、隣室やアパート全体を焼失させた場合は、借りていた部屋だけではなくアパート全部の損害の賠償を認めた判例や、焼失した戸室全ての家賃の賠償まで認めた判例もありますので、特に注意が必要です。
2005.10.15
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当該ハイツが事務所・店舗と住宅の併用?
私は住宅地の賃貸住宅(ハイツ)に住む者です。8軒ある同じ物件に個人経営のエステ店舗が入り、そのことでご相談です。
不動産会社によると、エステ店舗は別の場所(駅前)にあるので、部屋は「事務所」とのことでした。だから、そんなにうるさくないでしょう…との説明でした。が、最近、人や車の出入りが激しく、再度不動産会社に問い合わせたところ、3度目の確認で実は「店舗」として認めていると回答されました。この店の場合、大家も了承しているので違反にはならないということです。
契約さえ結んでしまえば、住民として「静かな環境を望む」権利は、無視されてしまうのでしょうか。また、エステと言っても様々です。ある程度は許容しようと思っていますが、共有スペースへの車放置や騒音など、正直苦痛を感じております。不動産会社に責任は無いのでしょうか。契約が結ばれている以上、どこへも口を挟めないのは分かっていますが、何か改善策はないか考えております。よろしくお願いします。
民法601条にいう賃貸人が賃貸物を使用収益させる義務とは、使用収益に適した状態で引き渡すことだけではなく、引き渡した後も賃借人がその契約に応じた用法に従い、使用収益するのに適した状態を保持し、その使用を妨害しないこと及び使用に適さない状態があれば適切な状態に回復することまでも含むと解されています。故に本件の場合、エステ店の営業によって貴殿並びに当該ハイツの他の世帯が、本来の用法、すなわち住宅としての使用に一般人を以ってしても受忍しがたい迷惑を被っておられるのであれば、民法616条(594条の準用・借主の使用収益権)により、本件住宅の賃貸人(家主)に対し適正な住環境に復させること、または契約の解除ができると考えます。 また、貴殿らが当該ハイツの契約にあたり、他の住戸について店舗使用を禁じ若しくは住宅以外の用途に附さない旨を説明されたにも関わらず、本件のような事情が発生したのであれば、本来の用法に戻すよう貴殿らは家主に対して請求することもできます(借地借家法31条、旧借家法1条)。
しかし、当該ハイツがもともと事務所・店舗と住宅の併用であり、前述した事情も存在しないのであれば、貴殿ご推察のとおり当該ハイツ内の一室の用法について、他の賃借人が異議を唱えるには根拠に乏しいといえます。
尚、本件契約を仲介した不動産会社の責任については、重要な事項の説明時、物件の用法等に虚偽の説明をし、エステ店を入居させたなど過失が認められるなら、貴殿らが被った損害や苦痛について不動産会社の不法行為に基づき損害賠償を請求できると考えます。
2005.5.15
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賃貸マンションの競売について
昨年の6月に賃貸マンションを借りたのですが、今年の始め裁判所から手紙が届き、この部屋が競売に掛かっていることを知りました。間もなく裁判所執行官とかいう人がいきなり訪れ、強制的に部屋の内部の写真を撮って帰りました。まだ半年そこそこしか住んでいないし、契約も2年契約です。私は追い出されるのでしょうか?その場合、敷金や手数料、引越し代など誰かに弁償してもらえますか?仲介した不動産業者は家主の事情を調査すべきではないのですか!腹が立って夜も眠れません。
貴殿の心情お察しいたします。バブル崩壊以後、不動産に投資しているオーナーの破綻・倒産が相次いでいます。まさか自分の借りたマンションが競売に掛かるとは、借りるときにはほとんど誰も思わないでしょう。しかし、業界では日常的に起こっている事案なのです。平成16年4月改正民法が施行され、いわゆる短期賃貸借(建物賃貸借にあっては3年以下)の保護規定は廃止されました(民法395条)。これにより、貴殿の場合も抵当権に後れる賃貸借契約であれば、契約期間の長短に関係なく競売による買受人の代金納付(所有権取得)・明け渡し請求後6ヶ月以内に、マンションを出なくてはなりません。さらに買受人に対して敷金等の返還を請求できず、元の家主に返還してもらうしかありません(破綻状態では実質の返還は難しいかも)。であれば、このような物件を紹介した不動産者に責任を取ってもらいたいところですが、抵当権の設定の有無について調査を怠り、明らかに外観上も露見しているほどの家主の破綻状況(他の物件もすでに競売に付されていたことを知っていたり、管理費などの長期に渡る滞納や、前賃借人への敷金未返還など)を故意に貴殿に告げなかったなど、 専門家としての注意、告知義務に違反していることが明らかな場合を除き、家主の経済状態を積極的に調査・把握することは難しく、業者に責任を問えるかは疑問です。
一方、我々不動産業者はこの度の民法改正を軽視せず、充分な物件調査と借主への説明を怠ってはいけません。調査怠慢により、7万円の仲介案件で400万円の損害賠償が認められた判例も存在しますので、ご注意を!
2005.4.15
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災害による賃貸借の終了と敷引き
先日の台風23号による被害で、私がお世話をした賃貸借契約の貸家の入居者から「床上浸水の為、このまま暮らすことが出来ないので退去したい。ついては当初に預けた保証金(敷引きも含め)全額を返還してほしい。」との連絡を受けました。家主は敷引きを返還したくないと言っています。どう対処すればよろしいでしょうか。また、宅建協会の方では災害による賃貸借契約の解約においては、敷引きを取らないようにとの通達を出していると聞きましたが、全日協会ではどのようにお考えでしょうか。
賃貸借契約が災害等不可抗力によって契約期間の途中に終了せざるを得なくなりた場合、阪神間特有の商慣習である敷引き(敷金より賃貸借契約によって予め一定額或いは割合を控除することを約定Lた金額)の適用の有効性については、先の阪神淡路大震災以降神戸・大阪を中心として幾つかの裁判所の判断が示されました。そして平成10年9月3日・最高裁小法廷は「賃借人は原則として敷引き金の返還を請求できる」という判断をくだしました。
つまるところ、賃貸借契約の終了に基づき控除される敷引き金は、当事者双方の予期せぬ時期に、賃貸借行為が突然終了を余儀なくされるような事情まで、敷引きを返還しないとの合意があるとは言えず、そのような合意若しくは特段の事情がない限り返還すべきものという主旨のようです。
しかし、裁判所は常に解釈の基準を示すにとどまりますので、ここでもやはり「それなりの合意、特段の事情」を残しています。従って、賃貸借契約期間が敷引きの適用を認めうる程度に長期間継続している場合や、約定に「天災地変その他如何なる理由による契約の終了であっても敷引き金は返還しない」との合意がされているとか、実質的に礼金であると判断できる場合など、ケースによっては災害による賃貸借契約の終了であっても、敷引きが認められる余地はありそうです。また、当協会では以上の理由から、協会としての判断を固定して通達は致しませんので、会員個々の事情でご判断され、解決を図られますように期待致しております。
2004.12.15
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家賃の日割り清算について
先日、借家から退去したのですが、不動産業者さんの立合い時に、月途中であったため、家賃を日割り計算して欲しいと申し出たところ、「勝手に出て行くのだから、日割り清算はしない。また、契約書にも書いてある。」と言われました。改めて契約書を見直したところ、何処にも書かれていなかったので再度確認をとったところ、「契約時にちゃんと説明した。」とのことでした。私の方は説明を受けた覚えがないのですが、清算してもらうことはできないのでしょうか。
不動産業者が実務上で使用している賃貸借契約書の標準的な約定条文の中には、殆どと言ってよいほど「借主から解約をする場合、明け渡し期日の○ヶ月以上前に貸主に対し通知しなければならない。ただし、賃料の○ヶ月相当額を支払うことにより、即時契約を解除することができる云々」という特約が盛り込まれているようです。この特約は、契約期間中の一方からの解約について、予告期間を定めたもので相手方に著しく不利益とならないものであれば、原則有効と考えられています。なぜなら、契約に期間の定め(例えば二年とか三年契約)がある場合、その期間は貸主、借主にとっても当該契約に拘束されるわけで、期間途中の解約は、原契約を変更して終了させるため、特別の方法を用いて処理する理由が生まれるからと考えます。従って、期間満了までの賃料を受け取る権利を有する貸主は、逸失利益に代わる損害賠償又は違約金的性格の金銭の補填を求めます。他方、借主は住居を続けられなくなることの経済的損失や精神的、社会的苦痛などを求めることになります。前者は本件のいう予告期間賃料相当額などであり、後者は立退き料や移転に伴う費用の賠償などが考えられます。(民法619条、借地借家法26条・28条)

本件の場合も、前述した貸主の権利の代替として、解約予告期間分の賃料相当額を請求しているものと察しますが、あくまで約定によって双方合意した場合の任意の方法ですから、取り決めがなされなかった場合は民法601条により、使用収益が終了した時点で賃料の支払債務も消滅すると考えられます(明け渡し時点での賃料清算)。ただし、今日通知して明日退去、なんて迷惑なことは論外ですが。しかし、当該不動産業者が契約終了時の金銭の清算に関してその説明を怠ったのであれば、重要な事項の説明義務違反であるとして、貴殿が被った損害を不動産業者に請求することは可能と考えます。(宅地建物取引業法35条1項12 号、同法施行規則16条の4の2第7号)
2004.5.15
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