事業者向けの相談

心理的瑕疵の告知期間は?…明確な基準が欲しい業者の苦悩

人々の記憶はいつまで残る…?
土地付中古住宅を購入し、自らは居住せずに賃貸物件として活用しようと思っています。この度、お手頃な物件が見つかったので購入を決意したところ、その敷地内の樹木で所有者の家族のお一人が首を吊って自殺していることを告知されました。私自身は、住むつもりもないため、気にしていませんが、これからこの物件を賃貸に出す際に当然事件のことを告知する必要があると思います。しかし、この告知義務はいつまで続くものでしょうか?永遠に告げなければならないなら、賃料水準も低く抑えなければなりませんし、投資効率は上がりませんから、購入を考え直さなければなりません。明確な期間をお示しください。
結論から申しあげますと、殺人や自殺などの事件事故による事実の告知について、事件発生後どの程度の期間を置けば告知の必要が無い、というような明確な基準は無いと言わざるを得ません。
そもそも、不動産の売主や貸主、仲介不動産業者等がそのことを気になさる理由が、不動産の瑕疵(心理的な要因)と判断される事案に関し、「知り得た事実の不告知」として、何らかのペナルティを科せられることを恐れるからですが、その事案(事件や事故)が瑕疵に当たるかどうかの判断も付きにくいという事情が伺えます。従って、まずは告知義務の有無と期間という問題よりも、不動産の瑕疵に当たるのか否かという問題を整理しておくことが有益と思料します。

事件、事故と自然死、病死は別物が原則
このような事案に関しては、多くの裁判例が集積されており、概ね以下のとおり裁判所の判断が確立しています。
建物やその敷地に瑕疵があるか否かの判断に、心理的要因も含むとした判例の基準となったのは、昭和37年6月21日大阪高裁が、「売買の目的物に瑕疵があるというのは、その物が通常保有する性質を欠いていることをいうのであって、右目的物が家屋である場合、家屋として通常有すべき『住み心地の良さ』を欠くときもまた、家屋の有体的欠陥の一種としての瑕疵と解するに妨げない。」として、心理的欠陥が瑕疵に該当することについて肯定して以来と言われ、心理的瑕疵の該当基準として、「建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景など客観的な事情に属しない事由をもって瑕疵といいうるためには、単に買主において右事由の存する家屋の居住を好まぬというだけでは足らず、さらに進んで、それが、通常一般人において右事由があれば『住み心地のよさ』を欠くと感ずることに合理性があると判断される程度にいたつたものであることを必要とする。」と判示してから以降、多くの裁判例が本判示を引用しています。

しかしながら、一般人としての個別的な感覚とは別に、建物や土地の瑕疵をいうのは当然その対象物件であり、その周辺や近隣における同様の嫌悪事情は該当物件の瑕疵とはなりません。よく、分譲マンションの共用部分での事件事故についての瑕疵が取り沙汰されますが、区分所有の室内及び共用部でもその部屋のベランダなど一体として利用する部分以外について、対象物件の瑕疵を論ずること事態、無意味です。
以上を参考に、不動産物件の瑕疵の存否を論じて下さい。

瑕疵とは、隠れたキズのこと!
そのうえで、本問に対する検討を行った場合、建物内での自殺ではないものの、事業の用に供する貸家と一体となる敷地内での事件であることから、契約の相手方に対する当該事件の告知義務は生ずるという認識は正しいと言えます。
又、当該事件は戸建て敷地内の樹木での首吊り自殺という特異なケースであり、近隣地域においてもそれなりに印象に残っていることが予想されます。
このような場合、一般的にこれぐらいの期間を経過すれば告知義務を免れるという判断は危険です。なぜなら、本件のような心理的な瑕疵を争った判例でも、事件の特異性、近隣の記憶の風化、地域住民の流動性(例:都会は忘れやすいが、地方村落では長期間に亘り記憶に残る)、当該事件の痕跡の撤去の有無などによって、裁判所の判断も分かれるからです。
又、当該物件の借主となる人物には感覚的に個人差もありますので、それらも考慮して判断すべきと考えます。

そこで具体的なアドバイスとしては、まず購入者(貸主)において、事件の痕跡(該当樹木等)を撤去し、いつまでも残像が残らないように庭の整備をするなど、事件当時の形状を変更することが良策と思料します。そのうえで、上記を総合的に判断して告知の要否を貸主自身で判断するしかないでしょう。
あえて期間をと云われるなら、賃貸借契約の対象物件に鑑み、このアドバイスに従うという前提で、最初の賃借人には告知し、その賃貸期間にトラブル等の発生がなければ、その次からは告知を為さなかったとしても義務違反に問われる可能性は過去の判例等からしても低いと考えます。
2015.03.05
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