事業者向けの相談

自然死、病死の場合の告知義務と心理的瑕疵による損害賠償

不老不死は人間の夢?
現在管理中の賃貸マンションの一室で、高齢の入居者が死後6日ほど経過した状態で親族が発見し、警察の現場検証と司法解剖によって病死と判明致しました(所謂孤独死でした)。現場は荒らされた様子も無く、女性だったので比較的整理整頓された室内には目立った損傷や汚れも無く、親族、連帯保証人さんらが荷物を片付け、契約を解約されて一件落着となりました。
しかし、当然ですが両隣の入居者からは気持ち悪がられ、お祓いして欲しいとか、部屋を替えて欲しいなどのお声が上がっています。また、次に募集を掛けるにしても、心理的瑕疵を言われるかもしれず、告知も必要かと思います。このような状況ですから、賃料を下げて募集することも考えていますが、その損害やお祓いの費用などは連帯保証人や相続人に請求できますか?また、両隣の方々の要望は受け入れなければなりませんか?出て行かれた場合の損害や、費用の負担を請求されたときは応じる必要があるのでしょうか?

不特定多数の人が入れ替わり、継続的に使用収益される賃貸不動産については、人の死(場合によってはペットなど動物の死も対象となる)に直面した部屋に対するその後の処理及び対応はとても大変です。
又、自殺など事件や凄惨な事故においては格別、病死や自然死など、生き物全てに訪れるはずの摂理にさえも、人によっては嫌悪感や恐怖感を覚え、又その感覚もまちまちですので厄介な問題となっています。

先ずはご相談内容を整理して、本件(賃貸借)に関する対応と事後の処理について、これまでの裁判例などを参考にしながら不動産業者(管理者及び仲介者含む)や家主としての告知義務の基準を考えてみましょう。

  • 1.事件性の有無による対応
    告知義務は、反面的には「借りようとする者が知っておくべき情報」が対象ということになります。一般常識的に、入居する建物において過去に「人の死」があったことは、心理的に嫌悪される事情でしょう。
    人の死について、不動産賃貸借契約における不告知(告知義務違反)を問われた裁判例は多数ありますが、特段の事情を考慮された判例を除き、自殺や殺人事件、火災事故などで概ね2xA軍年を経過するまではほぼ告知義務が肯定されており、最低経過年数としての裁判所の考え方を抑えておきましょう。
    一方で、3年以上経過すれば全く告知する必要が無くなるのではないことにも注意が必要です。ポイントは、「借りようとする者が知っておくべき」状況に現段階で在るか、無いかを判断することです。つまり、死亡時の状況や事件の重大さが地域の記憶として未だ鮮明に残っている、事故後に入居された第一次入居者以外入れ替わっていないなどの場合は、次に入居する者にとって知っておくべき情報であると言える(後に聞かされたときに強い嫌悪感を抱くと想像出来る)からです。

    他方、自然死や病死など、事件性が無い死に対する裁判所の考え方は、原則的に告知義務を否定する傾向にあります(東京地裁平成18年12月6日判決・木造2階建てアパートの一室で自然死があり、半年以上経過した段階で次の賃借人に告知を行わなかった事案で告知義務は無いとした)。

    嫌悪感にも個人差が…
  • 2.死亡時の状況と発見時の状態による対応
    次に、不慮の事故や自然死(病死を含む)であっても、それも人々の記憶に残るような現場の状況があったか否かで、告知義務の有無を左右すると言えます。どの程度の状況なら、という基準を定めることは出来ませんが、例えば隣家の火災によって大量の煙を吸い込んだことによる窒息死だとか、ベランダから足を踏み外した転落死など、不慮の事故であってもニュース報道されたり、暫く近隣の話題に上ったりするような状況は勿論、発見まで相当日数が経過したため、遺体が腐乱していたとか、大量の吐血によって汚損の状態が極端にひどかったというものも一定期間の告知義務を肯定される要因となるでしょう。

    思いもよらない災難と諦める??

一方、このような物件を次の入居者に斡旋する場合は、多かれ少なかれ何らかの影響は否めません。実務上は、賃料の減額や大規模なリフォーム、一定期間の募集停止など、家主にとっては経済的損失も馬鹿に出来ないものとして、はばかられながらも自殺や事件を起こした相手方の相続人、保証人などに対する損害賠償を請求したい気持ちは理解出来ます。
これについては、不動産価値の減少=損害の発生・自殺や殺人=不法行為の論理から損害賠償を肯定した判例が多く、一定基準(ライプニッツ係数=逸失利益計算方式)も採用されるに至っています。因みに、賃貸物件内で自殺した無断転借人が物件に与えた損害を賃借人及び連帯保証人に賠償を命じた東京地裁判決がありますので参考にして下さい。
平成22年9月2日判決では、原状回復費用と逸失利益が認められており、逸失利益においてはライプニッツ係数を考慮しながら、1年目は賃料の全額、2年目、3年目は賃料の半額が損害(以下参照)と認められました。

  • 1.原状回復費用相当額金944,475円
  • 2.逸失利益金2,778,752円
  • 1年目:126,000(月額賃料額)×12月×0.95234(ライプニッツ係数)
    =¥1,440,028
  • 2年目:63,000(月額賃料額の半額)×12月×0.9070(ライプニッツ係数)
    =¥685,692
  • 3年目:63,000(月額賃料額の半額)×12月×0.8638(ライプニッツ係数)
    =¥653,032
2015.12.05
▲一覧に戻る