一般(売買)に関する相談

危険負担と契約当事者の解除権…やっぱり法律は難しい!?

天災は忘れなくてもやってくる!?
お世話になります。
この度仲介業者を通じて、買主(建売業者=事業者)と売主(消費者=個人)とで契約を行う予定です。私が売主にあたります。
契約に際して契約書の草案を拝見したところ、「天災地変等により対象地が毀損した場合の損害補てんは売主にて行う」とありました。その後述として、「契約の目的が達成できない場合には、「買主は」契約を解除することが出来る」との記載もありました。文章で解釈した場合、売主である当方からは解除が出来ない、つまり解除権が無いようにとれます。
損害額にもよりますが、高額な補填費用を請求されるようであれば、当方からも解除をしたいと考えます。また、事業者と個人の契約のため、消費者契約法により事業者にのみ解除権があり、個人に解除権がない特約は無効にならないのでしょうか。不可抗力である天災地変により売買契約目的物が大きく毀損し、尚且つ多額の補修や補填費用が発生してしまう可能性のある契約内容に一抹の不安が残ります。
  • 1.解除権が買主(事業者)にのみある特約は妥当か
  • 2.解除権が買主(事業者)にのみある特約は消費者契約法に抵触し無効とならないのか
  • 3.上記2の無効となる場合、有効である場合とで見解が分かれるなら、その境はあるのか(例えば損害額の多少による)。
万が一の損害については想定でしか判断できないと思いますが、上記特約をどの様に捉えるべきか、ご教授ください。
よろしくお願いいたします。
危険負担とは、契約成立後(双務契約)の一方の債務が、債務者の責めに帰すべからざる事由により消滅した場合、他方の債務が消滅するのかどうか、つまり、その「危険」を負担するのはどちらかという問題です。
我が国の民法は、危険負担について534条で契約の目的物が特定物である場合は債権者の負担(債権者主義)とする一方で、536条で不特定物である場合は債務者の負担(債務者主義)としています。つまり、特定物であれば買主は代金を支払い(代金支払義務は存続する)、不特定物であれば売主は代金を請求できない(買主の代金支払義務は消滅する)とされているのです。しかし、不動産(特定物とされる)のような高額な物の場合は、契約上の特約で債務者主義(危険負担は売主が負う)を採用することが一般的です(民法534、536条は任意規定)。

法律を読み解くことは難しい…
以上を念頭に、貴殿の疑問に対して解説していきます。
まず、【「天災地変等により対象地が毀損した場合の損害補てんは売主にて行う」とありました。その後述として、「契約の目的が達成できない場合には、「買主は」解除することが出来る」との記載もありました。】という部分ですが、本件では債務者主義を採用しているところ、売主(債務者)が当該不動産を引渡す債務に対する危険(不可抗力による毀損等の修復債務=リスク)の負担を負っている、言い換えれば、売主は契約どおりの不動産を引渡す義務を負っているのですから、毀損修復が出来ない目的物を引き渡されても買主が契約の目的を達せられない場合、解除権者は買主(債権者)であることは当然です。あくまで、この特約による債権債務の関係性です。

次に、【文章で解釈した場合、売主である当方からは解除が出来ない、つまり解除権が無いようにとれます。】という部分は、危険負担を債務者主義とする本件において、民法536条1項は、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。」と規定していますので、不可抗力により売主(債務者)に帰責事由がない場合で毀損修復に多額の費用が掛るなど、修復が不可能で目的物を契約どおりに引渡せない(履行不能)のですから、売主は代金を受け取ることは出来ない、つまり買主の代金支払い債務は消滅するということになります。従って、売主から契約解除をなさずとも買主(債権者)が解除権を行使するのは当然で、遡及的に契約前の状態に戻せることになります。
※民法の規定上、債務不履行のうち、履行不能(民法543条)による契約解除権(法定解除権)も、履行不能が債務者の責めに帰すことの出来ない事由によるときは債権者に解除権は発生しないとしていることから、危険負担の特約において債権者に解除権(約定解除権)を留保させることも一般的です。

他方、売主(債務者)の側から契約解除が出来ない(解除権を留保させていない)という理屈は、あくまで危険負担に該当した場合に限っては、上述のとおり売主の履行不能という原因によって買主の支払債務も消滅し、当事者間の債権債務関係が解消される以上、売主から契約を解除する理由がない、つまり債務者に解除権が留保されていなくても問題とはならないということでしょう。因みに、危険負担の特約では、債務者に対する免責(不可抗力条項)が規定されることが一般的です。本件ではそこまで規定されているかどうかの情報がありませんが、免責条項が無い場合であっても、民法419条3項の規定(金銭を支払う債務においては不可抗力をもって抗弁できない)の反対解釈として、金銭債務以外の債務については、不可抗力をもって責任を免れることができるとされています。つまり、契約を履行できなかった場合、相手方から損害賠償請求や契約解除をされる危険がありますが、こちらが契約をできなかったのは不可抗力によるためだったということを立証できれば、相手方からの損害賠償請求等の責任追及を封じることができます。

危険を負担するということは?
以上より本件に関するご質問に対する回答としては
  • 1.解除権が買主(事業者)にのみある特約は妥当か
    →解除権が債権者に留保されるという理解であれば妥当と言えます。
  • 2.解除権が買主(事業者)にのみある特約は消費者契約法に抵触し無効とならないのか
    →1.の回答を前提とするなら消費者契約法に抵触することはないと言えます。
  • 3.上記2の無効となる場合、有効である場合とで見解が分かれる境はあるのか(例えば損害額の多少による)
    →本件危険負担においては2.のとおりですが、他の取り決めにおいて消費者契約法に反する解除権や取消権の制限は無効となる場合も当然あります(本件とは無関係ですが)。

最後に、本件の場合、買主事業者が用意した契約書を使用していると思われますので、前述した不動産取引の慣行に則った特約(危険負担の債務者主義)が付されていると推測します。貴殿の側に立って具体的な解決策を助言するとすれば、当該特約の危険負担に関する特約を以下のとおり変更することを買主と合意され、現行の特約を入れ替えれば如何でしょう。

参考(危険負担特約)
本物件の引渡し前に天災地変、その他売主および買主いずれかの責に帰すことができない事由により、本物件が滅失もしくは毀損したときは、次のとおり処理するものとします。
  • 1)本物件の一部が滅失・毀損した場合
    売主はその負担においてこれを修復して買主に引き渡しするものとします。この場合、修復に要する期間だけ引渡し時期が延期されても、買主は異議を申し立てないものとします。
  • 2)本物件の全部が滅失・毀損した場合、または本物件の一部が滅失・毀損した場合においてその程度が甚大で修復に多額の費用を要するときは、売主は本契約を解除することができます。
  • 3)前項により本契約が解除された場合、売主は受領済みの金員を無利息にて遅滞なく返還しなければなりません。なおこの場合売主・買主双方とも相手方に対し損害賠償請求はできないものとします。
2017.06.05
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