事業者向けの相談

民法改正…第5回(最終回)《賃貸借に関する見直し》

明治の法整備は…(明治政府司法卿:江藤新平です!※イメージ)
いつもお世話になっています。
さて、2017年6月に国会(衆議院、参議院)を通過し、公布された新しい民法ですが、最近はあまりそのことについて触れるニュースや研修会等も無く、少々不安に思い始めています。
また、新しい民法の施行時期や、変更されたポイントなども全然知り得ないので、知らない間に法律が変わっており、例えば契約書や重要事項などで間違った説明をしてしまった場合、後日紛争に巻き込まれたときには責任を負うのではないかと危惧しています。
そこで、このコーナーで民法改正に関する分かり易い情報を発信して頂けないかと相談した次第です。どうぞ宜しくお願い致します。
先ず、当該新民法とは、平成29年(2017年)5月28日の国会で成立した民法改正法案(民法の一部を改正する法律及び民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律)について、同年6月2日に 官報(号外第116号)に掲載され、公布された法律を言います。それによれば、明治29年の制定から実質的な見直しが行われないまま120年もの時が経過し、現代の社会や経済情勢に即したものとすること並びに国民一般に分かりやすいものとすることが求められていたことを受け、多くの有識者の意見を聞きながら政府(法務省)が改正試案を策定し、委員会、国会審議を経て今回の改正に踏み切ったものであるということです。
さて、その公布された改正法は、民法のうち、「債権法」と呼ばれる章であり、改正内容は多岐に亘りますので、主に重要な部分として消滅時効、法定利率、保証、債権譲渡、定型約款、売主の瑕疵担保責任、そして賃貸借に関する見直しについて本項で解説致します。ただし、書面の都合上、各項目について連載形式での説明とさせて頂きますので、お付き合い願います。
第5回(最終回)《賃貸借に関する見直し》
1.賃貸借契約における慣習の明文化
(1)敷金返還ルール
敷金とは、賃借人の債務を担保するために賃借人が賃貸人に交付する金銭をいうのであって、そもそも今回の法改正に依らずとも定義は判例等によっても確立された概念です。しかしながら、これまで我が国の法律には「敷金」に対する明確な規定が存在しなかったことから、賃貸借実務の実情に鑑み、民法にその規定を置いたというのが今回の主旨です(改正法622条の2)。

(2)原状回復のルール
敷金と同様に、現行法下での原状回復についても定義が存在させず、判例を踏まえた地方自治体、国土交通省などが定めたガイドライン等によって指針が示されていました。居住用建物については、通常損耗(賃借建物の通常の使用に伴い生ずる経年劣化部分や損耗)は賃貸人の負担とし、特別損耗(賃借人の故意過失による損耗)は賃借人の負担とした最高裁判例(最判平成17年12月16日民集218、1239項)に基づき、不動産賃貸実務も、判例に沿って運用されています。また、事業用建物についても(見解の対立が存在するものの)、基本的にはこの判例の意図するところだとする見解が主流です。
改正法では、居住用、事業用の区別なく、原則賃借人が原状回復義務を負うものの、その損耗が「通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化」である場合には賃貸人の負担とすることになりました(改正法621条)。
ただし、前述の最高裁判例では、賃借人が通常損耗につき原状回復義務を負うためには、「賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識して、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていること」が必要とした例外的取扱いに対するルールを示しましたが、今回の改正においてその主旨を変更するものではありません。従って、宅建業者や賃貸人としては、通常損耗を賃借人の負担とする特約を採用する場合、通常損耗の原状回復の範囲については可能な限り具体的に契約書に記すなど、明渡しに関するトラブルリスクの低減に努めるなどの注意が一層求められるものと思われます。

2.連帯保証人の保証範囲が限定される
保証に関する今回の改正法の概要については、本編1月号で説明しましたので、再度ご確認頂き、今回は特に賃貸借契約における連帯保証人に影響を及ぼす重要な改正点を解説します。
(1)居住用賃貸借契約の連帯保証契約には極度額の取り決めが必要(改正法施行日以降の契約に適用)
改正法のポイントは、一般的な根保証と同様に、賃貸借契約の場合でも「個人」(=法人ではないもの)を連帯保証人とする場合には、契約書面(電時的記録含む)で極度額(連帯保証人の責任限度額)を定めることが義務付けられました(改正法465条の2第1項)。この極度額を定めない連帯保証契約は無効とされます(改正法465条の2第2項)。
具体的には、例えば事業用物件の場合、連帯保証人は滞納賃料のみならず、高額の原状回復費用を負担する可能性があります。そこで想定される原状回復の範囲や程度等の事情に照らして極度額を設定すべきですが、契約段階で、想定される原状回復費用を大きく上回るような極度額を設定した場合には、当該連帯保証条件は無効とされる可能性もあります。
居住用物件では、原状回復に係る費用は事業用ほど高額にならないことが一般的ですが、いずれにしても、滞納賃料と損害金、原状回復費用の想定額を含め、実効性の高い合理的な範囲で極度額を設定する必要があると思われます。

(2)賃借人の情報提供義務
事業のために生じる債務の個人保証を依頼するときは、債務者(賃借人)は、依頼する個人に対して自己の財産や収支、債務の状況、担保として提供するものがあるか等を説明しなければなりません。
賃借人がその説明をせず、もしくは事実と異なる説明をしたこと(以下「不実の説明等」)によって個人が保証人となった場合で、賃借人が不実の説明等があったことを知っていたか又は知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことが出来ます。

(3)保証人の請求による賃貸人の回答義務
保証人から請求があれば、債権者(賃貸人)は、主たる債務の元本、利息、損害賠償、その他、主たる債務に関する全ての債務について、不履行の有無、残額、履行期限が過ぎているものの額を知らせなければなりません。
なお、賃貸人から期限の利益を付与した債務(ただし、賃料債務には期限の利益は該当しない)について、賃借人が期限の利益を喪失した場合、賃貸人は個人保証人に対し、期限の利益喪失を知ったときから2ヶ月以内に、喪失したことを通知しなければ、その間の遅延損害金を保証人に請求出来ません。
2018.04.05
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