事業者向けの相談

瑕疵担保責任と修補請求…民法改正を控えた考察

瑕疵とは隠れた傷!
不動産業を営む者です。平成32年に民法の一部(債権法関係など)が大幅に改正され施行されますが、不動産(特に建物)の売買や仲介の契約実務で旧来から瑕疵担保責任の特約についてなかなか理解が出来ていません。現行法では、瑕疵とは隠れたキズを指し、瑕疵担保責任は売主の無過失責任であると理解していますが、瑕疵ある不動産の買主は損害賠償請求と契約の解除権が認められるだけで、瑕疵部分の修理や補修請求権は認められていないとなっています(通説)。従って、契約時の特約によって売主の瑕疵担保責任を規定する場合、民法に従った特約とは別に、当然備わっているはずの性能が欠けている場合に、債務不履行を原因として不足を補う修補特約を付け、売買の目的が達せられないほどではない損傷部分は修理して引渡すことと規定しています(弊社独自の特約)。
一方で、大手仲介業者の標準契約約款などには、売主の瑕疵担保の条文そのものに修補請求を可能とする特約が規定されており、法理論と比較した場合に違和感があります(勿論民法の規定は任意規定ですから、違う特約も許されることは知っています)。そうすればめんどうくさくない、ということは分かりますが、我々宅建取引士はプロとして法理を理解した上でならともかく、おそらく殆どの営業マンは瑕疵担保責任を追及する場合、修補請求が出来るものと理解しているのではと、実務の現場でそう感じます。
長くなりましたが、民法改正を控えて、現行法での上記のモヤモヤをスッキリ解決しておきたく、ご質問する次第です。瑕疵担保責任と修補請求の法律関係をご教示下さい。
平成29年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立し(同年6月2日公布)、一部の規定を除いて平成32年4月1日に施行されます。現行法のうち、特に債権関係(契約等)の規定は、明治29年の制定以来、約120年間に亘って殆ど改正されず現在に至っています。そのような事情から、現代における社会一般の取引や経済活動に準拠し、且つ国民一般に分かりやすいものとする観点から、実務で通用している基本的なルールを適切に明文化することとしました。
不動産の“売主の瑕疵担保責任”についても、現行法570条及び566条において売主に法定責任を負わせた規定が適用されるのは、現行法483条「特定物の現状による引渡し」の義務に対する買主の保護という観点からであり、民法上は損害賠償請求及び契約解除のみなすことが出来ると規定され、実務上最も適当な「修理して引渡す」という修補請求権は含まれていません。そこが社会一般通念として納得し難いために、特約において法律とは異なった約定で当事者(売主・買主)の合意形成を図っているのが実務だということです。また、民法の規定を踏襲した特約の実効性としては、買主自らが修理する前提に立った損害賠償請求というロジックになっています。
この場合、不動産の売買契約書に多用される瑕疵担保責任のひな型特約条文としては、「売主は本物件引渡し後〇ヶ月(宅建業者売主の場合は2年以上)以内に発見された隠れたる瑕疵について買主に対し責めを負います。」というような文言が一般的で、現実に隠れた瑕疵が発見された場合、当該特約に基づいた実務として、損害賠償による金銭的補償もしくは契約の解除と損害賠償請求(違約金の請求に同じ)の併科をもって処理することになります。それ以外は、予め「売主の修補責任」特約を付し、当該契約の目的である不動産の買主が、売買代金相当に期待する性状に不足が生じており、売主側で修理修繕を行って引渡すべきが相当と思われる不具合(例えば修理に多額の費用を要しないような不具合など、具体的に修繕箇所などを列記)に関しては、修補責任を負わせる旨を約定しています。
上記の考え方は、貴殿がご指摘のとおり民法の規定に基づいた約定の構成になっています。この場合、推測すると「瑕疵担保責任」の特約は売買の目的を達せられない程度の重大な欠陥について、「修補責任」については、修繕が比較的容易で多額でなく、且つ買主の購入目的を阻害せず、売主に修繕を行わせて契約の履行を優先するのが適当である場合を想定し、たといそれが瑕疵と判断される内容であっても、当該修補責任の範囲として対処させようと意図したものだと考えます。

特約は重要だ!!
他方、「売主の瑕疵担保責任」の特約を民法の原則から変更し、瑕疵の範囲を限定したり、買主の損害賠償請求権または契約の解除権を排除もしくは制限したりすることも含め、当該契約の個別特性によって独自に解決方法を規定する場合があります。例えば、「売主は、本物件建物について、引渡し後〇ヶ月以内に発見された雨漏り、給排水設備の故障、構造上主要な部位の腐食、シロアリの害についてのみ瑕疵担保責任を負います。万一、当該瑕疵が発見された場合、修復に多大な費用を要するもの以外については、売主は当該瑕疵を修復し、買主に引渡すものとし、買主はその部分を原因とする損害賠償の請求または契約の解除をすることは出来ません。」というものです。この特約は、売主が本来民事上負うべき責任を制限することで、契約の履行の安定を図ろうとするもので、社会的経済活動の上に立った実務的な約定であると言えます。しかしながら、当該特約の有効性については訴訟対象となる事例も多く、特約に規定されていない瑕疵について紛争となった場合、売主敗訴の結果をもたらす裁判例は後を絶ちません。何故なら、いずれの裁判所も不動産の瑕疵に対する定義及び現行法上の法理(売主の無過失責任)を前提とした考え方が定説化しており、たとい民法が任意規定であるといえども、発見された瑕疵が、契約の目的を達せられない程度の損害を生じさせているものであるときは、損害賠償や契約の解除を積極的に認めているからです。

従って、売主の瑕疵担保責任に対する上記二つの特約の考え方のいずれによるとしても、そもそも「瑕疵」の判断基準と峻別が曖昧且つ広範であるところに加え、実務的な契約の履行に関する部分と、法的ロジックを重要視する机上の作業から出来上がったひな型約款とのギャップによって生じる当事者間の紛争に対しては、どちらも無力な存在となってしまうことも多々あります。
このように民法の規定する「売主の瑕疵担保責任」については、結果的に法解釈の問題というより当事者間の契約内容による解決が現在も優先されていることから、次の民法改正において、所謂法定責任から契約責任へとその所在を明確化することとし、法理と実務の整合化を図ったのが改正法の主旨であるということです。このことにより、契約内容(特約)による当事者の合意によって瑕疵の問題は処理されることとなり、合意に反する部分には法が適切に関与するという運用が期待されます。

特約よりも判例??
2018.11.05
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