事業者向けの相談

差押え不動産の売買…事案によって異なる契約決済の実務

仮差押え、差押え、参加差押え???
この度、土地所有者様から土地の売却のご相談がありました。登記事項を確認したところ、甲区に差押(〇市役所)があり、乙区には抵当権(△銀行)が設定されていました。所有者にヒアリングしたところ、市役所の差押は市民税の滞納、△銀行の抵当権はフリーローンの担保だということで、こちらの返済も数ヶ月滞っているとのことでした(競売申し立てを行うという最後通告的な督促状が届いている)。
これから査定に入りますが、このような物件の取引を行うに当たっての注意すべき点と、実務上の手続など、購入者に不利益を与えないよう進めていくにはどうすれば良いかを教えて下さい。
先ず、差押えについて基本的な内容を整理しておきましょう。
差押えには民事上の差押えと刑事上の差押え、行政手続きとしての差押えがあります。刑事上の差押えについては、被疑者逮捕に伴ってされる現場保存のための無令状の差押え(刑訴法220条1項2号)の他、事件解決に必要な証拠等の確保のため、捜索差押許可状の発付を裁判官に対して請求することで行うものがあります(刑訴法218条3項)。
本件では不動産の差押えが対象ですので、民事上または行政手続きによる差押えについて以下のとおり整理します。
  1. 1.民事上の差押え(債権者の権利の実現のために、国が債務者に、財産(不動産、動産、債権)の処分を禁止することをいう)
    原則として強制執行(競売や強制管理)に入る前段階の措置として行われる。
    根拠法令は民事執行法である。
  2. 2.行政手続き上の差押え(滞納者の特定の財産について原則的に処分を禁じ、公売等の方法によって金銭に換価可能な状態にするために行われる最初の手続き)
    法定納期限等一定の期日までに納付されない税などについて、徴収権者が滞納処分の一つとして行う債権回収手続き、行政処分。
    根拠法令は国税通則法及び国税徴収法、地方税法等である。
上記のとおり、差押えにはその目的と権利者によって法律上の手続が異なり、解除の手続きなどに違いがあるので注意が必要です。

ご相談の土地には、市役所の差押えが登記されているということですから、上記2.の行政処分による滞納処分です。当然のことですが、滞納金の一括返済(原則本税及び延滞利息の合計)がなされれば差押えは解除されますが、一般的には金銭的困窮等により支払い能力が無いから滞納していると思われ、当該土地の売却によって得られる代金から支払う(業界では同時抹消という)こととなります。従って、ご質問にあるとおり、差押えがされた状態の不動産をそのまま売却することが必要となってきますが、そもそも差押えは対象債権の回収を目的にされる強制執行手続の一部であり、目的物の処分(譲渡)は禁止され、使用・収益には制限が掛ります。端的には換価に負の影響を及ぼすような使用・収益の方法は債権者から制限され、その影響が無いもしくは価値を増加させる行為は許可されると考えて良いでしょう。本件のように対象が不動産の場合、通常の使用(例えば住宅などは債務者がそのまま住み続けるなど)・収益は継続出来ますが、譲渡(処分)については債権者(差押え権利者)に対して無効となります(ここでいう処分の禁止は、債権者との間で相対的に無効であるにすぎません)が、差押え中の売買契約も、売主(債務者)と買主(第三者)の当事者間では有効であり、移転登記もできます。しかし、差押え不動産を買い受けた者は、差押え債権者(本件では〇市役所)にその取得を対抗することは出来ないため、差押えに続く公売手続を経て最終的に別の第三者に売却決定がなされると、買主は、本物件の所有権を取得できません。これは民事上の強制競売でも同様ですので、本件土地の抵当権者が差押えを申し立てた場合、更に処分が困難になるでしょう。

何はともあれ、相談することが一番!
では、本件の様な微妙な状況にある不動産を問題なく売買する手法はどのようなものかを検討します。
先ず、ご相談には「これから査定に入る」とありますが、売却価格算出の段階で相場観を無視した高額な価格とした場合、売却が出来ず、その間に債権者(〇市役所及び△銀行)がそれぞれの手続を進めて強制処分に踏み切ってしまうことが懸念されます。反面、売却価格と債務の額が逆転(債務超過)し、結果として売買が成立しないこともあります。従って、以下の手順で綿密な計画を立て、債権者と連絡を取りながら進めることが肝要となります。
  1. 1.滞納している債務の総額を明確にすること
    〇市役所市税課に債務者本人をして滞納額及び延滞金の総額を確定させると共に現段階での市役所の手続状況(強制執行の予定など)を把握しておく。また、担当者に任意売却の手続の開始を伝え、売却時に一括納付を行うことで支払う意思の在ることを理解させる。
    △銀行に対しても同様。
  2. 2.債務の額と売却価格の整合性
    債務の総額が確定した場合、売却によって全てを返済出来るかどうかがポイント。貴殿の仲介手数料や売却諸経費なども詳細に算出し、出来る限り早期売却が可能な査定価格を提示し、所有者の理解を得ること。
  3. 3.売買が成立した場合の手続と対応
    売買契約時点では差押えと抵当権が設定されている状態であるから、買主には万が一を想定して完全な所有権の移転が出来なかったときの契約解除特約(白紙解除)や、手付契約の有無もしくは手付金の保全などを十分に検討しておくこと。また、△銀行による差押え(競売開始決定)などが追加された場合、裁判所からの通知などを見落とさないよう、所有者と連携を怠らないこと。
  4. 4.残代金決済に至るまでの注意事項
    決済日については買主の資金計画によるところ、可能な限り最短の日程を組むことで延滞金等の負担軽減に繋がる。また、早々に登記手続きを依頼する司法書士を選定し、本件状況を把握して頂いた上で、差押え登記の抹消嘱託書、抵当権抹消書類(民事差押えの場合は行政手続きとは異なり、裁判所の嘱託となることに注意)の事前確認や決済日当日持参の依頼など、所謂同時抹消に不備の無いよう入念に確認を行うこと。
以上が凡その流れですが、その他本物件特有の個別事案については上記と併せて十分に確認の上、慎重に取引に臨んで下さい。
2019.03.05
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