事業者向けの相談

生活保護受給世帯を標的にした詐欺…モラルハザードの実態

敷金・礼金ゼロのはずが…
神戸市内で不動産業を営む者です。先日、生活保護を受けている母子家庭のお母さんが部屋を借りに来られました。神戸市の生活保護制度について調べたところ、家賃上限、関連費用(敷金や礼金、家賃保証料、火災保険料など)の上限額が決められており、それ以下で部屋を探さなければならないとのことで、子供さんの学校とかの関係もあってなかなか厳しい条件です。
同業者の話によると、「条件は生活保護受給者が貰える総額に合わせないと、なかなか物件は見つからない」と言われました。つまり、支給上限以内の募集条件の物件を探すのではなく、支給される金額の上限を割り振って募集条件を変更して貰うのだということがわかりました。その他、フリーレントや敷金・礼金オールフリーなどの物件なら、上限まで条件を設定し直せば家主に関係なくその分も利益になるようなことも言っていました。
しかし、こういうことは制度の悪用であり、また家主に内緒で諸費用を業者の利益とする場合は契約書の二重作成も必要となり(管理している物件なら家主に契約書は見せないとか、サブリースなら問題ないとか)、犯罪ではないのかと心配になりました。合法的に出来る方法はあるのでしょうか?また、自ら貸主であれば問題にはならないのでしょうか?
生活保護に限らず、全国の地方行政による住宅確保要配慮者(国の定義:低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子育て世帯)に向けた様々な支援制度には設計上問題が多く、厳格且つ煩雑な手続きを要する制度は利用者が極端に少なく、一方で手続きが簡略でチェックが甘い制度は悪用される危険性が高くなっています。
本件では生活保護受給者(世帯)に関連する住宅扶助制度の悪用事例であり、宅建業者の方々及び当事者の皆様にも十分にご留意していただきたい内容です。

さて、生活保護受給者に関連する悪用事例としては、数種の事案が明るみに出され、刑事事件として処理される案件も多数に上っています。
 1.所謂、貧困ビジネスと称される事例
この場合は、元々住居を定めず低料金宿泊所やネットカフェ、公園等で野宿生活を送るホームレスなどをターゲットとしているところに特徴があります。
これはそもそも生活保護制度を利用していない生活困窮者を対象に、制度を無理やり利用させるために住居を斡旋し、且つスタートした新生活の支援者という立場で受給者に支給される生活扶助費(食費・被服費・光熱費等)、住宅扶助費(アパート等の家賃及び関連費)、医療扶助費(医療サービスを受ける費用)などを中心に、本人の意思や実際の利用に関係なく、申請書類等を偽造または変造するなどして支給させ、関係者を装った他人が殆どの部分を搾取するという手口が一般的です。
 2.不動産業事業者が主導する住宅扶助費搾取の事例
今回のご相談内容はここに分類されると思われます。これは、生活保護受給者またはその世帯が居住指導等(生活保護受給者の現状を改善するための転居等の指導)により新しい賃貸住居を探索していることに関与し、管轄の自治体で定められている賃料、敷金・礼金、引っ越し費用やその他関連費用の支給制度を利用し、本来の募集条件を変更して支給額上限に合わせるなど、制度を悪用しようとするものです。
ただ、民間賃貸住宅では公営住宅と異なり募集条件の基準はありませんので、生活保護受給者が借り易いように諸条件を善意で変更する場合(例:賃料や一時金の減額交渉など)、住宅困窮者にはある意味推奨されるものでしょう。しかし、問題とされる事案は経費の減額ではなく増額にあります。また、賃貸人にその事実を告げず、仲介会社や管理会社が単独で条件変更を行うことで、増額した賃料や一時金の差額などを利益として搾取するという事案であり、法的にもコンプライアンス的にも問題となっています。

生活保護の申請は増加している
『犯罪の構成』
今回ご相談の2.の事案について、法律上の観点から論じてみますと次の通りとなります。
先ず、典型的な詐欺事件となる例(生活保護受給者は単身者とする)では、賃料3万円、敷金・礼金無しの条件で募集されている賃貸住宅があったとして、当該地域(神戸市)での住宅扶助費上限規定(基準)では、賃料が4万円、敷金・礼金は実質賃料(管理費や共益費は除く)の6倍までが支給されますので、以下の変更が可能となります。
・賃料3万円→4万円
・敷金・礼金0円→24万円(敷金は返還義務を負うので、上限まで礼金とする事例が多い)
これを賃貸人(家主)に知らせなければ、毎月賃料のうち1万円、礼金においては24万円全額が宙に浮くことになります。不徳の事業者はこの差額を搾取しようとして、契約書類等を二重に作成するようです。つまり、当該賃貸借契約が家主には募集条件通り、自治体には賃料4万円、礼金24万円の募集条件で契約が成立した書面を提出します。通常、契約書には賃貸人と賃借人両名の署名捺印がされており、当然、賃借人も二重契約について加担するケースが殆どです(言葉巧みに二種類の契約書に署名させられたケースも存在する様です)。なお、当該契約において特に賃貸管理業者(宅建業者)が仲介者を兼ねているケースでは、簡単に支給額を受領することが出来ますので、搾取の助長に繋がっている様です。
斯様な事例において、法的にどのような犯罪を構成しているのかを検討してみます。
1.実際の条件と架空条件によって自治体と賃貸人を欺いている
人を欺いて財物を交付させたり、財産上不法の利益を得たりする犯罪が詐欺罪です。詐欺罪の成立には、人を欺く行為、欺く行為によって被害者が錯誤におちいる、錯誤に陥った被害者が財産上の処分行為や給付を行う、財物(金品など)か財産上の利益が第三者へ移るといった事実が必要です。これを事例に当てはめてみると、
「人を欺く行為」・当初条件を偽り、高額な条件を正規条件として提示する
「被害者の錯誤」・上記の架空条件を信用する
「財産上の給付」・請求に従って扶助費を支払う
「利益等の移転」・不動産業者が賃料差額や礼金等を収受する
となろうかと推察しますので、詐欺罪は立証されると考えます。

また、事例では、自治体に提出した契約書が偽造されていることから、文書偽造の罪(有印私文書等偽造)にも当たります。その他、関係者がこれらに加担した場合、詐欺罪の幇助として、もしくは共同正犯として本罪の適用を受けることもあります。
なお、これらの行為が貸主もしくはサブリース会社によって仲介業者を介さずに行われた場合であっても、正規募集条件の変更が扶助費の搾取であることが明らかな場合、上記同様に詐欺罪を構成することは当然です。宅建業者は免許業者としてのモラルとコンプライアンスを遵守し、適正な制度運用に努める義務があることを忘れてはなりません。
※実際の事案の判断は、弁護士に必ずご相談ください。

詐欺の容疑で逮捕する!!
関連条文:
刑法第246条(詐欺)
1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑法第159条(私文書偽造等)
1.行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
2.他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3.前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

刑法第161条(偽造私文書等行使)
1.前2条の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処する。
2.前項の罪の未遂は、罰する。
2019.09.05
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