民法改正中間試案に見る保証人保護の方策の拡充と不動産取引実務における一考察

公益社団法人全日本不動産協会全日本不動産近畿流通センター
Z-support専任アドバイザー
大阪セントラル法律事務所
弁護士 松本 康正

1.民法改正作業

民法改正作業 現在,法制審議会民法(債権関係)部会で民法改正作業が進められている。現行民法は,明治29年に制定されたものであり,商取引の複雑化,現代化などの時代の変化の中で民法の抜本的な改正が検討されているわけであるが,これが実現すれば,民法が改正されるのは実に120年ぶりとなる。
平成25年2月26日に「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」(以下「中間試案」という。)においては,保証債務について,特に保証人保護の方策の拡充についての内容が盛り込まれた。
保証契約ないし保証関係は,不動産取引において常に付いて回る問題であり,この点の民法改正論議については目を離せないところである。

2.契約締結時の説明義務・情報提供義務

保証人保護の方策の拡充については,個人の根保証契約を法人の経営者に限定する改正がかねて検討されており,既に平成25年6月12日の参議院本会議においてこの点の改正案が可決された(民法第465条の6,7)。この改正は,貸金・金融の観点からは重要な改正ではあるが,不動産取引との関連という意味では間接的であるともいえる。
むしろ不動産取引において重要な改正は,契約締結時の説明義務・情報提供義務であると思われる。
中間試案「第17保証債務6保証人保護の方策の拡充(2)契約締結時の説明義務・情報提供義務」においては,

  • ア.保証人は主たる債務者がその債務を履行しないときにその履行をする責任を負うこと。
  • イ.連帯保証である場合には,連帯保証人は催告の抗弁,検索の抗弁及び分別の利益を有しないこと。
  • ウ.主たる債務の内容(元本の額,利息・損害金の内容,条件・期限の定め等)
  • エ.保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合には,主たる債務者の[信用状況]

について,事業者である債権者が,個人を保証人とする保証契約を締結しようとする場合には,保証人に対し,説明しなければならないものとし,債権者がこれを怠ったときは,保証人がその保証契約を取り消すことができるものとするかどうかについて検討するとされている。
不動産取引については,宅地建物取引業法において,宅地建物取引業者の説明義務が規定されているところではあるが,債権者が主債務者のほかに(連帯)保証人との間でも(連帯)保証契約を締結する場合に,(連帯)保証人に対する説明義務については規定されておらず,連帯保証人に対する実際の説明の程度についても事務上ばらつきがあるようである。この点に関して上記の改正が検討されている。
上記の改正が実現した場合,宅建業者が契約当事者となる場合に上記ア〜エの点についての説明義務を負うことはもちろん,契約を媒介する場合においても,同様の説明を求められるようになることは,宅建業法の改正の可能性も含めて必至であり,不動産業者としてこの点についての対応の準備が今後求められるところであると思われる。
加えて,上記改正が実現する前に締結された契約についても,(連帯)保証人に対しての契約内容についての説明が重視されるものと思われる。すなわち,たとえ法改正前であっても,上記のような改正が論議されている中で契約内容についての十分な説明なく契約書に署名,捺印がなされた場合には,(連帯)保証人から(連帯)保証契約の錯誤無効などの主張がされる可能性が上記の改正実現によって高まるものと思われ,上記ア〜エの事項が保証契約の要素として基本的なものであることや契約における説明義務が重視される近時の傾向からすれば,裁判所が法改正前の事案を救済する趣旨も含めて上記の説明が不十分な場合に要素の錯誤を認定し(連帯)保証契約の無効を認定する可能性も一定程度あるからである。

3.主たる債務の履行状況に関する情報提供義務

中間試案「第17保証債務6保証人保護の方策の拡充(3)主たる債務の履行状況に関する情報提供義務」においては,
「事業者である債権者が,個人を保証人とする保証契約を締結した場合には,保証人に対し,以下のような説明義務を負うものとし,債権者がこれを怠ったときは,その義務を怠っている間に発生した遅延損害金に係る保証債務の履行を請求することができないものとするかどうかについて,引き続き検討する。

ア.債権者は,保証人から照会があったときは,保証人に対し,遅滞なく主たる債務の残額[その他の履行の状況]を通知しなければならないものとする。
イ.債権者は,主たる債務の履行が遅延したときは,保証人に対し,遅滞なくその事実を通知しなければならないものとする。」

とされている。
不動産業者にとって,金融の手段が講じられることの多い売買契約においてはこの点の重要性は高くないかもしれないが,賃貸借契約においては,主たる債務すなわち賃料債務の履行が遅延することが多々あり,この点の改正論議の行方が注目される。
上記の改正が実現した場合において,賃料債務の履行遅滞についての(連帯)保証人への通知を怠った場合に請求できないのは,あくまでその間の遅延損害金であって賃料そのものではないが,賃料額によっては,遅延損害金も無視できない場合も多いと思われる。他方で,定期的に発生する賃料債務の履行遅滞について逐一的に(連帯)保証人に対する通知が必要であるとするのも煩雑に過ぎるとのきらいもあり,この点の手当てが期待される。

4.その他の問題

その他,保証債務についての法改正が検討されている点としては,諸事情を考慮して裁判所が保証債務を減免することができる「減免制度」,保証債務が課題である場合において過大な部分についての履行請求ができないことになる「比例原則」などが注目されるところであり,不動産実務に対しても影響が想定されるところではあるが,これらはむしろ保証債務によって破産に陥るケースの救済を目的としており,影響は限定的であると思われる。
保証債務そのものの問題ではないが,類似の問題としていわゆる「表明保証」がある。
しかしながら,表明保証は,実務が先行しており,判例の蓄積も不十分である中でどのような形で明文化されるかについても未だ議論が未成熟であるといえる。
不動産取引への影響という観点からは,この点の議論の行方は大変注目されるところであり,議論の深化と将来的な法整備を期待したい。

(了)