平成25年度 近畿地区 取引・苦情処理業務指導者研修会

平成25年12月2日
公益社団法人不動産保証協会/社団法人全日本不動産協会
弁護士 玉村 匡

【演習問題1】

Xは、その所有する本件土地をYに賃貸用アパート所有目的で貸していたところ、平成24年3月ころ、Yが、坪単価に実測面積を乗じた額で本件土地を買い取る話が進み、X側で測量を行うことになった。
Xは、本件土地の測量を測量設計事務所に依頼したが、計算の誤りにより、実際の面積である約400屬茲衞60崗ない実測面積を記載した求積図を作成し、Xに交付した。
XとYは、平成24年7月30日、本件土地の売買契約を締結した。その契約書には、「本件物件は実測取引とする」との特約が付されていたが、上記の求積図による誤った実測面積が明記され、この面積に坪単価を乗じた額が売買代金とされた。
また、契約書には、「実測数量を指示した物件の数量が不足した場合は、売主が担保の責任を負う」旨の不足額調整条項が含まれていた。
その後、測量結果の誤りを知ったXは、売買代金が940万円あまり不足しているとして民法565条(※下記参照)を類推適用して請求したが、Yは応じなかったため、訴訟提起した。
Xの請求は認められるか。

(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
第563条
1.売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2.前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3.代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。
第564条
前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ一年以内に行使しなければならない。
(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
第565条
前二条の規定は、数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。

●ヒント●
民法565条の文言に注目

●回答●
Xの請求は認められない。

●解説●
[最高裁平成13年11月27日判決]
「民法565条にいういわゆる数量指示売買において数量が超過する場合、買主において超過部分の代金を追加して支払うとの趣旨の合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもない。
しかしながら、同条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎないから、数量指示売買において数量が超過する場合に、同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできない。」

【演習問題2】

Xの母親であるAは、平成13年1月、その所有する不動産を売却したいとの意向を持ち、不動産売買の仲介等を業とするYに相談した。
同年9月11日、AはYに本件不動産を1500万円で売却した。
これと同日、Yはこれを2100万円でBに転売し、差額600万円の利益を得た。
AY間の売買契約当時、YはBに転売することを予定していた。Aは87歳の老女であり、この売買について特に異議は述べていなかった。
その後Aが死亡し、Xが相続した。そこで、Xは、Yに善管注意義務ないし誠実義務違反があるとして、主位的に不法行為(民法709条、715条及び719条)に基づき、600万円の不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。
(1) Xの請求は認められるか。
(2) 認められるとすると、損害賠償額はいくらと考えるべきか。

●ヒント●
本件物件が2100万円で売却された場合の媒介手数料の上限金額は、72万4500円である。

●回答●
(1) Xの請求は認められる。
(2) 損害賠償額は、527万5500円の範囲とするのが相当である。

●解説●
[福岡高裁平成24年3月13日判決]
宅建業法46条が宅建業者による代理又は媒介における報酬について規制しているところ、これは一般大衆を保護する趣旨をも含んでおり、これを超える契約部分は無効である(最高裁昭和44年(オ)第364号同45年2月26日第一小法廷判決・民集24巻2号104頁参照)。
また、被控訴人らは宅建業法31条1項により信義誠実義務を負う(なお、その趣旨及び目的に鑑み、同項の「取引の関係者」には、宅建業者との契約当事者のみならず、本件のように将来宅建業者との契約締結を予定する者も含まれると解するのが相当である。)。
そうすると、宅建業者が、その顧客と媒介契約によらずに売買契約により不動産取引を行うためには、当該売買契約についての宅建業者とその顧客との合意のみならず、媒介契約によらずに売買契約によるべき合理的根拠を具備する必要があり、これを具備しない場合には、宅建業者は、売買契約による取引ではなく、媒介契約による取引に止めるべき義務があるものと解するのが相当である。
〈合理的根拠の判断〉
1.売主の意思
本件取引について、Aからは何ら苦情は出ず、本件取引後からAが死亡するに至るまで、AはYと親密な関係にあったことからすれば、本件取引がAの意に反して行われたものとは認められない。
2.売主の利点

  1. (1) スピード
    AがYに対し本件物件を売却したいとの意向を示したのが平成13年1月であるのに対し、本件売買契約が締結されたのは同年9月11日であることからすれば、この点についてAに利益がもたらされたとはいえない。
  2. (2) 確実性
    本件売買契約締結は、本件転売契約締結と同一日に行われているのであり、これら契約締結がなされるまで、YがAとの売買契約を解消する余地は残されていたことからすれば、本件取引において当該利点が存在したものと認めることはできない。
  3. (3) 安心感
    本件取引において本件物件は現況有姿のままで取引されており、商品化のコスト等は不要であった。また、本件売買契約には、Aの瑕疵担保責任の減免について何ら記載がなく、当該契約上はAに有利な条項が含まれているものとは認められない。
  4. (4) 本物件の問題点の解消の必要性の有無
    Yが主張する本件物件の問題点(本件土地上に老朽化した本件建物があること、本件土地に通じるガス管・排水引込管が隣地に権限なく埋設されていること及び隣地への越境あるいは境界紛争の存在。)については、本件転売契約における特約とするか、重要事項説明書に予め記載することにより隠れた瑕疵には当たらないものとして瑕疵担保責任の対象から除外する措置が執られている。また、これにより本件転売契約におけるYとBとの交渉が難航したなどの事実は認められず、同契約における売買価格2100万円についても、BはYが提示した同金額を異議なく受け入れている。
    さらに、本件取引に際し測量は行われず、本件取引後、本件土地はコインパーキングとして使用されているとの状況によれば、ガス管等の埋設はその使用に際し問題となるものではなかったと認められる。
    すると、上記問題点が法的紛争として顕在化することの危険性は、本件売買契約締結によらずとも、AとYとの売買契約において、本件転売契約及びそれに関する重要事項説明書と同様に、特約の締結や重要事項説明書における記載により除去できたのであるから、上記問題点について、本件取引による利点の存在を認めることはできない。
Yの不法行為責任についての結論

以上によれば、Aにおいて、本件物件の売却について、Yとの媒介契約ではなく売買契約により行い、かつYにおいて、本件取引により、本件売買契約における代金額である1500万円の4割にも及ぶ600万円もの差益を得たことについて、その合理性を説明することはできないから、本件売買契約により本件物件を売却したことについて合理的根拠を具備していたものと認めることはできない。
すると、Yには、少なくとも上記合理的根拠が具備されていないにもかかわらず売買契約である本件取引により本件物件の取引を行った過失が認められるから、Xに対し、不法行為として損害賠償をする義務を負うものである。

Yの損害賠償の範囲

Yは、媒介契約におけるのと同様に、本件物件の売却先を確保し、売買契約を締結するのに必要な行為を行ったことが認められ、これにより本件取引が成立したものと認められる。
また、本件物件が2100万円で売却された場合の媒介手数料の上限金額は、72万4500円となり、これは、本件物件が、AとYとの媒介契約及びAとBとの売買契約により売却された場合に必要な費用であると認められるから、これら契約によりAが取得できた金額は、本件取引による差益から上記媒介手数料を控除した金額にとどまることとなる。
すると、Yらの不法行為によるAの損害は、本件取引における差益である600万円とするのではなく、これから上記媒介手数料72万4500円を控除した527万5500円の範囲とするのが相当である。