【2017年6月号特集】
「家族信託」相続対策・財産管理の新たな手法(後編)


一般社団法人家族信託普及協会会員
家族信託専門士
つなぐ司法書士法人
代表社員 司法書士 西本晋也

前編に引き続き、家族信託の活用事例をご紹介します。

収益不動産オーナーの家族信託

収益不動産、たとえばアパートを父親が2棟持っているとします。子どもは長男と長女の2人です。父親は自分でアパートの管理を行っていましたが、ある日、庭の手入れをしていたときにつまづいて、頭を打ち入院してしまいました。今も意思判断ができない状態が続いています。
現在、アパートに新規入居希望者などがでた場合は、長男や長女が父親の代わりに賃貸借契約書を代筆しています。今後問題はどんなことで発生するでしょうか。
賃貸借契約は法律行為ですから、たとえ家族であっても父親名義の契約の主体になることはできません。ましてや、意思能力や判断能力がなくなっている状態の父親があたかも判断をしたかのような体裁(代筆)を権限のない家族が行うことは、実は、法律上大きな問題があります。
同様に、今の状態では、将来発生するかもしれない「修繕」や「建替え」「売却」といった判断を必要とする行為を行うことが難しいといえます。
では、父親が元気なうちに、家族信託を設定しておけばどうだったでしょうか。

家族信託を利用すると・・・

アパートが2棟あって、子どもは2人ですので、所有者である父親を委託者として、例えばA物件については長男を受託者とします。そして、利益を受け取る権利(家賃や売却代金など)は父親、つまり受益者は父親とします。B物件についても同様に父親を委託者兼受益者とし、長女を受託者とします。父親が元気なうちは、長男長女と一緒にアパートを管理していけば問題ないでしょう。家族信託を利用しておいても、父親がずっと元気でいることが一番です。
もし、将来父親が、意思能力や判断能力を失う事態に陥った場合、今度は受託者である子供たちが適法に財産の管理処分権限をもって「賃貸借契約」はもとより、「大規模修繕」や「建替え」、もしくは「売却」といった行為を行うことが可能です。
何よりも、意思判断能力を失った父親の「代筆」をして契約行為を行うという「法的に問題のある行為」から解放されます。
もちろん、信託契約書には、将来相続が起きた場合、それぞれの物件の承継先を、A物件は長男、B物件は長女としておけば、別途遺言で指定したり、相続発生後に遺産分割協議をしなくても、父親の意思どおりに相続させることができます。

不動産業と家族信託

我が国の国民が保有する資産のうちで不動産が占める割合はとても高く、資産管理や相続対策においては、不動産についてのアプローチがメインテーマになる可能性があります。まさに不動産業者の方々は、家族信託を積極的にご紹介いただける立場であると言えます。
個々の物件ごとの不動産売買や建築のご提案のみならず、保有資産全体に対するデューデリジェンスの役割もお客様からは求められます。家族信託という切り口でそのようなポジションを得ることも可能となります。
特に、不動産管理に携わる方々は、地主さん・資産家の保有資産を体系的に把握している場合もあり、対策のご提案に最も近い立ち位置にいるケースも多いので、お客様のお役に立つためには、「家族信託」の知識は必須になると思われます。
皆様がお持ちの不動産に関する知識とノウハウをもって家族信託をご活用いただければ、お客様の老後の不動産管理のお悩み解決に、大きくお役立ちいただけることと存じます。