【2019年9月号特集】進化によって楽しめるようになった戸建て住宅

株式会社不動産経済研究所 日刊不動産経済通信記者 北川友理

 誰であれ、人生の中で長く住む住宅の数は限られるだろう。20代、30代のまさにこれからマイホームを買おうという多くの人たちにとっては、一番の物差しになるのは生まれ育った家ではないだろうか。筆者の実家は、団地開発に伴い造成された住宅地の一角に地域の工務店が施工した一次取得者層向けの木造戸建てだ。今も愛着はあるその家は築30年を超え、設計・施工をした工務店はすでになく、バスルームの設備更新と陥没したリビングの一角の床の修理はホームセンターに依頼していた。耐震性は低く、夏は暑くて冬は寒い。
 こうした一昔前の「よくある戸建て住宅」像は、昨今の一次取得者層向けの戸建て住宅には当てはまらない。技術の進歩や価格競争を経たことで当時と同じ価格帯でも、一定の耐震・断熱性能と、間取りや外観を含めた好みのデザインをある程度実現できるようになった。したがって、戸建て住宅に関しては、ほとんどの場合「生まれ育った家」をベースに考える必要はない。むしろ、ぜいたくにならないと損だ。
 例えば、大開口や吹き抜けといった開放的な要素と、高気密・高断熱という「住み続ける」上で重要な性能は、ある程度両立できる。大開口と吹き抜けを取って高いランニングコストに悩むか、デザイン製と解放空間を捨てて窓が極力少ない設計にして、高気密・高断熱を採るかという選択をする必要はない。バブル期には、大開口と吹き抜けのある住宅は高所得者層の特権で、一種のステータスだった。ハイレベルな設計事務所への依頼料と、各部材が特注という高い建築コスト、高額な冷暖房費の支払いを維持できることが、理想の空間を手に入れる条件だった。しかし家は住み続けるものだ。建てた父親の代は裕福だったが、息子はごく普通のサラリーマンで維持管理費も改修費も出せず、手放すしかなくなるという展開も多いらしい。しかし今なら、ハウスメーカー各社の既製モデルの中にも大開口や吹き抜けが自慢の住宅があるし、大きな窓もよほどの物でない限りわざわざ特注しなくても、住設メーカー各社が定番のラインナップに加えている。当然、気密断熱性能もある程度備えている。窓を樹脂フレーム+ガラス3層の高性能モデルにするなどでさらに性能を上げることも可能だ。平均的な一次取得者層も現実的に選べる選択肢になった。「住み続ける」上で一番大切なのは快適さである。快適さは、かなりの部分が気密断熱性能にかかっているのだから、見えない部分ではあるが必ず重視してほしい。
 夫婦共働きが当たり前となった世の中で、人と家のつながりの形もだんだんと変わっていくのかもしれないが、住宅は家族全員にとって、これまで以上に快適で使い勝手が良く、居心地が良い空間になるべきだ。単なる寝に帰る場所でなく住むことを楽しめる空間、活力を得る空間、数十年住んで役割を終えた後に処分に困るものではなく、性能と資産価値を保ったまま中古流通市場に回せるものであってほしい。